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JRIレビュー Vol.7,No.79

ビジネスと子どもの権利を考えるー子どもの抱える課題を解決するために

2020年06月11日 村上芽


日本国内では、子どもの数が減少している一方で、自殺あるいは虐待や心中による子どもの死亡数、児童虐待の相談対応件数、いじめの認知件数、不登校の児童・生徒数などのデータから、「困っている」状態にある子どもが増えている。こうした課題に対して、保護者、国や自治体、教育・福祉関連機関が対応を求められているが、産業界の直接的な役割はほとんど期待されていない。しかし、人材育成の観点から、企業も看過すべきではない。そこで、「子どもの権利」という概念を手掛かりに、企業(ビジネス)と子どもの課題の接点を検討していく。

「子どもの権利」は①生きる権利、②育つ権利、③守られる権利、④参加する権利に大別される。こうした「子どもの権利」の内容は日本ではほとんど知られていない。いじめなど表面化している課題に対して個人レベルでの関心は一定程度あるが、ビジネスでの対応となると「接点が遠い」と考える企業が圧倒的に多数であることが推測できる。

3.ビジネスと子どもの権利の接点が知られるようになったきっかけは、1997年にスポーツ用品メーカーの調達元で児童労働が発覚し、欧米の消費者による不買運動が起こったことである。しかし、接点はそれだけではないという問題意識のもと、ユニセフなどの団体が「子どもの権利とビジネス原則」を2012年に発表している。同原則は、消費者としての子ども、地域住民としての子ども、従業員の家族としての子どもなど、様々な立場の子どもを想定しており、課題は先進国にも広がっていることを示す。日本において企業と子どもの権利の接点を検討するときも、児童労働以外の接点を網羅的に考える必要がある。

子どもの権利の実現に取り組んでいる海外の企業として、イケア(スウェーデン)、ウィルマー・インターナショナル(シンガポール)、オルクラ(ノルウェー)、ING(オランダ)の例と、子どもの権利とビジネスに関する調査研究を行うグローバルチャイルドフォーラム(スウェーデン)の活動を調査した。海外の企業でも、児童労働以外の子どもの権利について包括的に評価したうえで活動方針を決めている企業はまだ少ないことが分かった。

最後に、子どもの権利の尊重に向けてとくに日本の企業が取り組めるよう、業種ごとに親和性の高いテーマを挙げ、ESG(Environmental, Social, Governance)の側面別に、ビジネスとの接点例をまとめた。子どもの権利を尊重できていない場合には経営リスクになるが、子どもの抱える課題に貢献できるような取り組みがあれば、ビジネス機会となりうる。さらに、日本では、人材育成の観点で子どもの権利の実現に取り組むことが、SDGs(Sustainable Development Goals)が求めるような「大胆な変革」になりうる可能性がある。
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