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転換を迫られる地域の観光戦略
~ポストコロナ時代における宿泊事業と観光客の行動変容~

2020年06月08日 山崎新太


1.新型コロナウイルスが地域の観光に与えた影響
 世界的な新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全世界的に人の移動が制限された。観光・ビジネスの双方について、国内外から各地域ヘの人の流入が激減した。
 観光産業の被害は甚大である。2020年4月の訪日外国人旅行者数は2,900人であり、一月当たりの旅行者数としては統計が開始された1964年以来最小となった。これは2019年4月と比べると99.9%の減少となり、文字通り「需要が蒸発」した状態である。また大手信用調査会社の発表によれば、新型コロナウイルスによる倒産件数は5月20日時点で170件、うち最大がホテル・旅館の35件、続いて飲食店21件と観光関連産業が上位2位を占めている。
 コロナ禍は宿泊、飲食、物販、レジャー施設、体験、交通、その他波及する産業に大打撃を与えており、観光消費によって地域経済を成り立たせていた地域は危機的状況にある。


2.今までの観光戦略と、これから地域で起きること
 観光産業はわが国の有力な成長産業として、国が主導し市場拡大の努力が進められてきた。訪日外国人旅行者数の増加は中心的なテーマであり、東京オリンピック・パラリンピック開催の追い風も受けて、「明日の日本を支える観光ビジョン(平成28年3月)」では下表のような目標が示された。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災の影響で一時的に減少は見られたが、それ以降は右肩上がりに推移し、2019年には過去最高の3,188万人を記録している。


 これらを背景に、各地域において観光戦略が策定されてきたが、多くの地域で共通する内容は、①インバウンドは増加することが前提であり、②観光入込客数の増加よりも観光消費額増加を目指し、③その実現のため「体験型」「高付加価値型」「宿泊・滞在型」を志向することであった。これは成熟した国際観光都市のあり方ともいえる。しかし新型コロナウイルスはこの前提・方針の根本を揺るがした。
 すなわち、第一に今後数年間は観光客数が回復せず、回復過程は国内近隣地域から始まるため、インバウンドは当面減少することが前提となる。また数年後に現在と同様の事態が生じる可能性も否定できない。第二に、この状況の影響を最も直接的に受けるのは、外需に依存する宿泊業である。飲食・物販・レジャー等は、ECの強化や地域住民サービスの強化などビジネスモデルの転換余地があるが、宿泊業はそうはいかず、宿泊・滞在型の推進が困難となる。第三に、今後は観光客の行動が変容する可能性が高い。多人数による行動が避けられ、個人・少人数、かつ非接触・非対面の観光が進むであろう。その中で、今まで通りの「おもてなし」によって体験や価値を提供することが困難となる。
 そこで本稿では、ポストコロナ時代における地域の観光戦略のうち、特に重要な2つの論点、すなわち①宿泊事業の持続性をいかに高めるか、②観光客の行動変容にどう対応し価値を提供するか、について論じる。

3.宿泊事業の持続性確保
 国内遠方あるいは海外からの観光客数が減少する中で宿泊需要の低下は避けられない。地方部に立地する地元資本の旅館・ホテルは、長期間にわたり極めて厳しい状況にさらされる中で、事業継続が困難となる可能性もあるであろう。いくつかの地域では、従業員が農業繁忙期に農家で働くなど、異業種間の人材シェアが行われている。旅館・ホテルのコストのうち4割程度を占める人件費は、こういった取り組みにより一部カバーできる可能性もあるが、施設維持費(コストの3割程度)は必ず発生する。
 しかし宿泊施設が激減した場合、観光需要が回復期に入った時に当該地は通過型観光が主となり、地域にとって大きな痛手となる。回復期において滞在型・宿泊型観光を再開し、観光消費額を増加させるためには、地域は何としても宿泊施設を維持しなければならない。そのためには国内需要を喚起し、日帰りプランなどにも柔軟に対応していくことは当然のこととして、次に示す2つの方策が考えられる。

①資産の有効活用を地域全体で行う
 一点目は、あらゆる手段を講じて宿泊施設を地域で「使っていく」ことである。需要の激減した宿泊施設に対して一時的に公的支援が導入されることはあるが、長期にわたり支援を受け続けられるわけではない。観光に関わる関係者の合意のもと、宿泊施設を「地域の観光産業を支える重要なインフラ」と捉え、支える必要がある。
 コロナ禍の中、すでに宿泊施設は一時的な病棟やテレワーク拠点としての利用が行われた。今後は、それらに加えて、あらゆる「一時利用」に活用することが求められる。例えば、公共施設建替え時の一時利用(仮設校舎など)、建設工事中の事務所、倉庫、テレビや映画の撮影、イベントなど、リース事業における仮設建物に近しい考え方で活用していく。これには宿泊事業者の努力のみならず、利用する地域側の協力と、国による建築基準法や旅館業法の時限的な規制緩和、公共施設の設置基準の例外規定等が必要となる。

②宿泊事業者の事業多角化
 二点目として、宿泊事業者は、この危機的状況を生き延びる間に事業の多角化を進めるべきである。飲食、物販、レジャー、農業など、観光需要と地域住民需要の双方を取り込める分野に事業展開することが考えられる。これらの分野に多角化を進めることは、宿泊事業との相乗効果が見込まれ、宿泊客に対してはサービスパッケージを提供することで価値を高めることができる。加えて、地域内の需要も取り込むことで、リスクを分散化することができる。
 観光関連事業を分野横断的に展開する事業者は、地域における「観光コングロマリット」となり得る。様々な地域資源を組み合わせ、編集し、様々なサービス形態で観光客に提供することで地域の価値を高めることによって、地域商社やDMCの役割を果たす可能性がある。例えば山形県鶴岡市で「スイデンテラス」というホテルを経営するヤマガタデザインはホテル、レストラン、子育て支援施設、求人紹介サイトを運営するほか、農業生産法人の立ち上げや農業経営者育成学校の運営にも取り組んでいる。結果として、同社の収益源は観光客に限定されることなく、地域のまちづくり会社として地域との共存・共栄関係を構築している。
 このような事業形態は、地場企業の経営統合によって実現するものと考えられる。現在は目の前の危機を乗り越えることで精一杯の地場企業を動かし、将来に備えるためには、経営統合に関する補助金や税制優遇等の政策的な推進と、地銀や自治体による働きかけが不可欠である。

4.観光客の行動変容への対応(個人旅行から個人サービスへ)
 今後、観光需要が回復する過程の2~3年の間に、観光客の行動様式が徐々に変わり、それが一般化することが予想される。日本人・外国人を問わず、観光客は集団行動を避け、個人・少人数行動を好むようになるであろう。また対面型サービスを避け、非接触・非対面型サービスを選択する可能性が高い。例えば、宴会場バイキング形式ではなく部屋食を、大浴場ではなく個室露天風呂を、遊覧船ではなくジェットボートを、周遊バスではなくパーソナルモビリティを選択するようになる。あらゆるサービスが個人・少人数対応となる。
 この状況に受け入れ側が対応するためには、陳腐化した団体旅行向けの設備やサービスを個人旅行・個人サービスに対応した設備・サービスに転換する必要がある。そして、絶対的な人手不足に陥ることが明らかなため、徹底的なデジタル化(無人化・自動化・オンライン化)が不可欠となるであろう。観光の非接触・非対面・無人化・自動化・オンライン化が進むとき、観光事業者は、デジタル化によって効率的に個人サービスを提供する部分と、対面型サービスで高い付加価値を提供する部分を、顧客・料金・サービス内容によって柔軟に組み合わせることが必要となる。また個人サービスになればなるほど、帰宅後のCRMも観光客個人との関係強化が求められる。その面でもオンラインでの情報提供やコミュニケーションは重要性を増すであろう。

5.自治体のなすべきこと
 自治体のなすべきことは、①観光戦略の見直し・周知、②観光関連産業事業者への支援の2点である。まず、これまでの観光戦略の前提が覆ったことを認識し、地元関係者と共に、早急に「ポストコロナ時代の観光戦略」を策定するべきである。その際は本稿で述べたように、宿泊施設の一時利用の徹底など短期的(1~2年)にこの危機を乗り切るための施策と、地場企業の経営統合やデジタル化対応など中期的(2~5年)な施策を整理する必要がある。次にその施策を実行するため、地場企業への情報提供や経済的支援を行うことが望まれる。「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」など、国が用意する様々な支援メニューをフル活用して、この状況に迅速に対応することが肝要である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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