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あえて言う、「今がホスピタリティ産業に訪れた千載一遇の変革のチャンス」

2020年06月03日  


株式会社サヴィーコレクティブ 代表取締役 浅生 亜也氏
山田 英司(聞き手)


新型コロナウイルスのショックによる社会的な停滞は、多くの産業や企業に様々な影響を及ぼしている。中でも、ホテルに代表されるホスピタリティ産業は、渡航制限による来日外国人の減少のみならず、国内における緊急事態宣言による地域間の移動も制限されたことにより、大きな打撃を被った。しかしながら、このような状況が永続的に続くわけではなく、ホスピタリティ産業も社会の動きを見据えながら、新たな形を模索していくと思われる。バブル崩壊、リーマンショック、そして度重なる震災など、様々な困難に対して、その度に知恵を尽くし、立ち上がってきたホスピタリティ産業は、今後、どのように動いていくべきなのであろうか。今回は、ホスピタリティ産業に様々な角度から関わってきた株式会社サヴィーコレクティブ浅生亜也代表にお話をうかがった。



(山田)
 まずはホスピタリティ産業との関わり合いを中心にして、浅生さんの自己紹介をお願いします。

(浅生)
 ホテル業界で企画開発からハンズオンでのオペレーションまでを一気通貫で担うサヴィーコレクティブを2017年に設立しました。私にとっては2度目の起業です。1度目の起業は2007年で、地方のリゾートや旅館を中心とした運営再生事業を行うためのホテル会社、アゴーラ・ホスピタリティーズを立ち上げました。通算で25年以上ホテル業界に身を置き、幾度となく様々な自然災害等経験していますが、今回の新型コロナウイルスがわが業界に与えたショックは想像を超えるものでした。

(山田)
 浅生さんのご経験の中でも、今回の新型コロナのショックは非常に大きいものだったのですね。先ほど、「想像を超えるほどのショック」とお話されましたが、業界が現在どのような状況になっているのか、またホスピタル産業の方々が当面の状況をどのように認識しているのかについて、もう少し詳しくお聞かせください。

(浅生)
 最近の成長はインバウンドを中心としていたものだったため、海外との渡航制限が出た途端に業界中が凍りつきました。さらにロックダウンによる国内の移動制限が加わり、宿泊事業も休業を余儀なくされました。
 今後はっきり見えてくると思いますが、今一番影響が出ているのが賃料債務を抱えながら運営する都心部のホテルです。訪日客も出張者も激減し、シティホテルではせっかくの年度変わりにもかかわらず、「三密」の宴会需要が皆無となったことからその影響は甚大です。これらのホテルでは、投資側や事業者側のプレイヤーの入れ替えが行われることでしょう。また、ホテル不動産が必ずしも従来の宿泊施設ではなく、「時間を過ごす場所」として多様な使い方に対応することになるのではと予想しています。
 一方、地方の観光地域にある宿泊施設にとっては、実はGWを除けば4月から6月はほぼ日本全体がローシーズンです。自粛解除がなされても、今からでは夏休みの需要も見込めないため、これらの地域の施設において事業継続を悩む時期がこの後に迫っています。第一波の真のインパクトが顕在化するのは、少なくとも年末まではかかると思われます。

(山田)
 本日(2020年5月25日)、緊急事態宣言が全面解除になりました。とはいえ、ホスピタリティ産業について当面は様々な活動は様子を見ながら、段階的に再開していくという流れになりそうです。今後、ホスピタリティ産業が回復するまでどのような道のりをたどるとお考えでしょうか。

(浅生)
 ホスピタリティ産業が抱える最も大きな問題は供給量です。オリパラを契機にインバウンド狙いのエリアで多くのホテルが開業しました。全ては需要が伸び続ける想定が前提であり、それに魅力を感じた異業種からの参入も多くありました。未だ開発中のホテルもあり、今後の市場では、古く魅力に欠けたホテルは整理されてくると考えられます。
 宿泊事業者にとっても、自粛の長期化が与えた影響は甚大です。通常、オペレーターの手元運転資金は平均3カ月から半年程度であり、今秋までに何らかの手当てがないと事業継続が難しい事業者も出てくるでしょう。
 需要の回復を望むところですが、SARSで6カ月(中国国内)、リーマンで30カ月、東日本大震災で12カ月とそれぞれ稼働回復までに時間を要しています。ワクチンが開発され世界に行き渡るまでの間、幾度となくオーバーシュートを繰り返すことを想定すると、ホテル業界の所有と経営と運営の構造の中で、3者が解を見いだす強調体制が必須であると考えます。
 回復には2~3年を要するであろうと、多くの業界事業者は覚悟を決めています。訪日観光客の入国は今年いっぱい期待できず、まずは国内需要からの回復を予想しています。
 これまでの需要の伸び率は間違いなくインバウンドが牽引していましたが、国内には安定したトラベル需要があることが救いです。また海外への渡航も心理的に制限されることから、年間2008万人のアウトバウンドの旅行意欲が国内需要のパイに加わる可能性も否めません。日本中のリモートワーク経験も、今後のワーケーション・ステイケーション需要につながることは必至だと考えます。

(山田)
 一方で、「ニュー・ノーマル」という言葉が、最近よく聞かれるとおり、アフターコロナの時代は、今までの状態に復することではないと言われています。この流れはホスピタリティ産業も不可避であると思いますが、どのような視点が重要でしょうか。

(浅生)
 今回のコロナ自粛期間は、それぞれの地域の支援体制や結束力の高さを体感しました。元来日本にある「村」の意識です。この「共存共栄」を意識した地方のあり方こそが、コロナ共生期の都心部にも必要であると考えます。特にソーシャルディスタンスを新しい生活様式として継続させなければならないコロナ共生期においては、稼働を追いかけるビジネスモデルが難しいことは明白です。
 ホテルが、単に宿泊者を受け入れるだけでなく、その地域における役割を担う事業者であることも求められてくると考えます。

(山田)
 なるほど、最近世の中でよく言われている「協働」というコンセプトの前に「共生」という概念があるのですね。この「共生」という言葉には、人々の紐帯を強めるだけでなく、長期戦の中でコロナとどのように向かい合い、付き合っていくかという意味も含まれており、非常に興味深いです。具体的にはホスピタリティ産業の中心を担うホテルは、今後は何をすべきでしょうか。

(浅生)
 ホテル事業者にとっては一斉にスタートラインに立ち、新しいホテルオペレーションを考える機会です。コロナ共生期においては、ゼロベースで、
1)衛生管理のオペレーション
2)滞在スタイル
を徹底的にデザインし直す必要があります。
 これからの利用者がホテル滞在に求めるのは、まずもって「感染しないこと」であり、そのためにホテルがどのレベルの価値観と危機感を持っているのかを示すことが重要になります。具体的な対策については業界内ですでに多くのスタンダードが発表されています。今は、残念ながら情緒的価値より衛生的価値や機能的価値を優先せざるを得ない時期と言えます。
 ただ、これまでソリューションは様々ありながらも、従来のやり方を変えられなかった自動化や非接触化などが進むチャンスとも考えられます。
 今、利用者が一番怖いと感じているのが不特定多数の人との接触です。ホテル側は、「特定多数」の人が集まる場所だと利用者に認知してもらい、安心してもらうこと、また接点を考慮した滞在スタイルに設計し直さなければなりません。具体的には食事の取り方や場所、大浴場のあり方、人が集うことを価値としていたラウンジの利用などです。
 受け入れる地域の住民も同じように恐怖を感じています。コロナ禍は外部から持ち込まれるものであると認識した今、「自分たちさえ楽しければ」という感覚の人を受け入れてしまったら、共存共栄はなし得ません。ホテル事業者にとっては、都心部か地方かにかかわらず、その地域における役割と責任を重く受け止めることが求められるでしょう。
 サービス設計を見直すことだけでも大きな変革ですが、その上第二波など今後繰り返されると言われるオーバーシュートに備えることも求められます。これには、一言で「伸縮可能」な組織を持つことだと考えます。こう言うと、人件費の変動費化だとネガティブに捉えられそうですが、これこそが業界全体で行うべき「働き方」の変革だと思っています。ホテルマンのポートフォリオワーカー化や異業種ワーカーを加えたワークシェアなど、考えられることはまだあると感じます。

(山田)
 お話をお聞きしていると、大きな変革の波がホスピタリティ産業に迫っていることが理解できました。この変革を成し遂げるためには、月並みな表現にはなりますが、相当のリーダーシップが必要と思われます。最後に、ホスピタリティ産業に従事する方へのメッセージをお願いします。

(浅生)
 コロナ共生期のホスピタリティ産業のあり方の再構築には、できれば新しいリーダーが生まれてほしいと願っています。変わりたくないことを理由に、もう受け入れられることのない「従来型」に引き戻さないでもらいたい。もう先に進むしかないと考えます。
 本質的な「人はなぜ旅をするのか」という部分は大きく変わらないと思います。そのニーズやライフスタイルの変化に柔軟に対応しながら、マーケットに訴求できる施設を運営しエリアの価値を上げることに貢献していくという姿勢が問われていくのではないかと思っています。
 まさに千載一遇の変革のチャンスなのです。

(山田)
 本日は、お忙しいところをありがとうございました。



ホテルをはじめとするホスピタリティ産業、とりわけホテルについては、今回のコロナショックによって、非常に厳しい環境に置かれている。聞き手である私も、職業柄多くの地域においてホテルに宿泊する機会が多いこともあり、今後の行く先を案じる中での今回の対談であった。
浅生代表は、今回のコロナショックについて冷静に現実を直視しつつも、過度に悲観的にならずに、危機をチャンスと捉えており、前向きな力強さを話の中からひしひしと感じた。来るべき「ニュー・ノーマル」の中で、ホスピタルティ産業がどのように変化してゆくのかを楽しみとして、今後の趨勢を見守っていきたい。




浅生亜也 氏
株式会社サヴィーコレクティブ 代表取締役
持続可能なライフスタイルを志向し、不動産の用途企画からコンセプトデザインや運営管理まで行うソリューションクリエイター集団。今秋にはリトリートホテルやリゾートオフィスも開業予定。
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