コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2020年6月号

感染拡大下で緩和に向かうインドのロックダウン

2020年05月28日 熊谷章太郎


インド政府は新型コロナの感染拡大抑制と経済活動の再開の両立といった困難な課題に直面している。

政府はロックダウン措置を3度にわたり延長
新型コロナの感染が各国に広がるなか、人口当たりの病床数や医師数が中高所得国と比べて少ないインドは、医療崩壊を予防すべく、3月下旬から諸外国と比べても厳格なロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。

まず、政府は午前7時から午後9時の間の外出自粛を求める「Janta Curfew」を発表した。その後、タミル・ナドゥ州やデリー首都圏が州境の閉鎖などを含む独自のロックダウンを実施すると、中央政府はその数日後にこれらのロックダウンをインド全土に拡大した。同措置により生活必需品の運搬や医療サービスの提供を除く州をまたぐ移動が禁止されるとともに、大半の工場・オフィスが閉鎖されることとなった。

こうした厳格なロックダウンを実施したものの、衛生環境が悪くかつ人口密度の高いスラム街を抱える都市部を中心に新規感染者数は4月入り後からむしろ増加している。その結果、累計感染者数は5月中旬に中国を上回り、アジアで最も感染者数が多い国となった。

こうしたなか、政府は当初3週間の期間限定措置であったロックダウンを4~5月に3度にわたって延長し、現在は5月末まで同措置を継続する方針を示している。一部の専門家の間では新型コロナの感染拡大は6~7月頃までピークアウトしないといった見方も出ているため、今後も同措置が繰り返し延長される可能性がある。

感染抑制に向けた取り組みが難航する一方、政府は経済活動の停止を受けた失業者の急増への対応にも追われている。インドでは包括的な労働力調査は数年に一度しか作成されないため、公式統計から足元の雇用環境の変化を定量的に把握することはできない。しかし、地場の民間シンクタンクCMIE(Centre for Monitoring Indian Economy)が作成する失業率が数カ月前の8%前後から4月にかけて20%を上回る水準に上昇したことなどを踏まえると、雇用環境は急速に悪化していると判断される。州間の移動制限を受けて、農村部にも帰郷できず日々の生活に困窮する失業者の栄養状態の悪化や自殺の増加などが深刻な社会問題となりつつある。

政府は低所得者への食料の無料配給や現金給付などによる対応を図っているものの、このような対応にも限界が近づくなか、4月中旬から感染拡大が続く状況下でも段階的にロックダウンを緩和する方向に政策転換を進めている。5月からは感染状況に応じて全土を三つのゾーンに区分し、レベルに応じた経済活動の再開を認めた。また、5月中旬にロックダウンを再延長した後は、州をまたぐ移動を条件付きで認めるとともに、特定の禁止事項を除く経済活動の再開を原則として全てのゾーンで許可した。

ただし、実際にどの程度規制緩和を進めるかについての判断は州政府に委ねられているため、今後の経済活動の再開状況には州ごとにばらつきが生じると見込まれる。州をまたぐ移動についても双方の州の合意が必要であることに加え、一定期間の隔離措置などの制約を課す州もあることから、州間のサプライチェーンの寸断が解消されるのには一定の時間が掛かると見込まれる。

財政健全化を一時棚上げ
ロックダウンによる景気急減速を受けて財政政策のスタンスも足元で変化している。モディ政権発足以降、政府は財政赤字の削減に向けて引き締め気味の財政政策を続けており、3月下旬に発表された景気対策も小規模なものにとどまった。

しかし相次ぐロックダウンの延長による景気の大幅悪化を受けて、政府は5月に総額20兆ルピーと、名目GDPの約10%に相当する大型の経済対策を発表した。景気対策には中小企業の融資に対する信用保証やインド準備銀行によるLTRO(Long Term Repo Operation)などを通じた流動性供給が含まれることから、直接の財政支出は限られる。しかし、税負担軽減措置や景気悪化による税収減少などにより、財政赤字の大幅拡大は避けられないだろう。なお、リーマン・ショックの発生時に財政赤字の対名目GDP比率が約5%拡大したことを踏まえると、2020年度(2020年4月~2021年3月)の一般政府の財政赤字の対名目GDP比率は10%を超える可能性がある。

そのため、経済活動の段階的再開や財政・金融政策の拡張を受けて景気が持ち直しに転じた後は、財政安定化がインド経済の主要課題に位置付けられると見込まれる。経済成長と財政赤字削減を両立できるかは、電力、金融、農業など、政府からの補助金支出の大きい分野の改革を加速できるかにかかっている。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ