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新型コロナウイルス感染症とSDGs

2020年05月26日 村上芽


 新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックを、2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)はどのように見ていたのだろうか。

 169のターゲットのうちで伝染病を扱うターゲット3.3では「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病と言った伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」とある。
 ここにある「水系感染症」(water-borne diseases)とは、病原微生物に汚染された水を摂取することで引き起こされる感染症を指し、コレラ、チフス、赤痢などが代表例である。現在でも、きれいな水を飲めないことで下痢になって亡くなる人は全世界で年間200万人に上り、その多くは5歳未満の乳幼児である」(注1)

 もちろん、日本では戦後、塩素消毒された水道水の普及とともに、こうした疾病の患者が激減したことから、私たちはこうした病気の深刻さをなかなか理解できない。ましてや、新型コロナウイルスから抱く感染症のイメージとはかなり遠いのではないだろうか。
 このほか、ターゲット3.bでは冒頭に「主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研究開発を支援する」とある。先進国では克服しているが開発途上国ではまだ解決されていないような病気を、主に想定していたのだろう。

 しかし、この辺りで「SDGsも、先進国をここまで巻き込んだパンデミックは想定外だった」と片付けてしまうのは早計だ。新型コロナウイルス感染症による世界の死者数は5月4日時点で25万人弱に達するが、下痢による年間死者数はその8倍に及ぶことや、きれいな水がなければ手洗いもままならないことに、私たちは改めて考えを及ぼさなくてはならない。これがSDGsから得られる第一のメッセージといえる。

 第二は、今後の世界に関することである。新型コロナウイルス感染症収束後の世界について、「よりよい復興(Build Back Better)(注2)」「移行(transition)」といった表現で、単に元に戻るのではなく改革・改善された世界にしよう、ということがよくうたわれる。新しい世界をどう作るか、その際に参考にすべきなのが、SDGsを含む「2030アジェンダ」だろう。

 保健分野では、「2030アジェンダ」の宣言部分の第26段落で、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と質の高い保健医療へのアクセスを達成しなければならない」としている。UHCとは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」のことを指す(注3)
 新型コロナウイルスの感染者の分布や属性分析を行っていくと、低所得層ほど医療機関へのアクセスが悪い地域に住んでいることや、もともと健康状態の悪いケースが多いことが、英・米においても浮かび上がってきている。つまり、先進国でもUHCは達成できていないことが明らかになったといえよう。

 新型コロナウイルスの流行は今後も続くと考える必要があるし、気候変動の進行により気温や降水量が変化し、さらに未知のウイルスや病気との闘いが発生するという想定をしておく必要もある。対策を講じるためには、各々の国でこれまでの感染者や亡くなってしまった人に関する突っ込んだ属性分析や、UHCが達成できていたのかという視点での事後評価が欠かせないだろう。
 日本政府の「SDGsアクションプラン2020」においては、UHCは国際協力の文脈でしか語られていない。しかし今や、先進国・途上国という線引きを捨てて課題に挑まなければならない状況にある。この点も、SDGsがすべての国を対象とした考え方であるということを物語っている。

(注1)WHO(世界保健機関)の調べによる。
(注2)災害復興に関する国連の「兵庫行動枠組」を「仙台防災枠組2015-2030」(2015年3月)の「優先行動4」で示された、災害復興段階で災害対応能力を強化しようとする考え方。新型コロナウイルス感染症による社会・経済変化の文脈で、英米でよく使われるようになった。
(注3)厚生労働省のウェブサイトに詳しい説明がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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