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CSRを巡る動き:新型コロナウイルスからの回復と気候変動対策

2020年06月01日 ESGリサーチセンター


 国際エネルギー機関(IEA)は4月30日に「Global Energy Review 2020」を発表しました。「新型コロナウイルスが世界のエネルギー需要とCO2排出に及ぼす影響」という副題が付けられたこのレポートでは、2020年の世界のエネルギー需要はマイナス6%と予測されています。これは世界第3位のエネルギー消費国であるインドの年間エネルギー需要分に相当する減少とのことです。電力需要も同様に大幅に下落する見込みで、新型コロナウイルス感染対策としてロックダウン(都市封鎖)を徹底した国では平均して20%減少、世界全体では5%減少となる見込みです。電力需要や、自動車や飛行機の燃料需要の下落は、石油と石炭の需要の減少に直結し、2020年の石油需要は9%、石炭需要は8%減少すると見られています。そしてこれらのエネルギー需要の下落によるCO2排出量は8%減少(およそ2,600MtCO2の減少)という「過去最大の減少」となる見込みです。

 一方、国連環境計画(UNEP)が昨年発表した「Emission Gas Report 2019」では、パリ協定で定めた長期目標である「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える」の達成に向けて、CO2排出量を2030年まで毎年7.6%削減することが必要だと指摘されています。つまりこの目標を達成するには今後10年間、エネルギー需要は今年と同程度かそれ以下にとどめる必要があるということです。これから徐々にロックダウン解除が行われ人々の移動や経済活動が再開すれば、当然エネルギー利用量も増えCO2排出量も増えていきます。CO2排出量を増やさず経済活動を活性化するには、再生可能エネルギー利用量を増やすだけでは追いつかず、並行してイノベーションの創出への努力が必要です。そうは言っても簡単に革新的な技術やソリューションが生まれるわけではないので、政府、企業、個人各々がコントロール可能な範囲で何ができるのかを考え実行していくことが重要です。

 EUでは、4月14日に新型コロナウイルス経済対策に気候変動対策を盛り込むことを要求する「グリーンリカバリーアライアンス」が発足し、EU加盟国12か国の大臣、グローバル企業のCEO、経済団体、NGOなど180人以上が署名しました。発足趣意書には、経済活動を回復させるためには公共投資を始め多額の投資が必須だが、投資においては気候変動の緩和促進の観点を盛り込むべきだ、ということが記載されています。また緩和促進に必要な技術やツールが着実に進化していることにも触れ、カーボンニュートラルな社会構築へのシフトに向けて加盟者が有する知見や専門性を活用し、投資が有効に活用されるよう働きかけると主張しています。経済回復のために再エネ賦課金と炭素税の停止や、EUの自動車CO2排出規制強化の撤回を求める声がドイツ国内で上がっている中、この発足趣意書からは気候変動対策はむしろ劣後させるべきではなく、経済対策の中心に置くべきだという姿勢が感じられます。

 さらにその3日後の4月17日には、米国に拠点を置くLinux Foundationの中に、気候変動が投資運用に与える影響を算出する、数値モデルを開発する共同プロジェクト「OS-Climate」が立ち上がりました。プロジェクトにはESG評価機関や機関投資家、企業の他、マサチューセッツ工科大学やランド研究所といった学術機関、米航空宇宙局(NASA)や世界自然保護基金(WWF)なども参加しています。この数値モデルは気候変動の緩和と適応の両方を対象とし、気候変動を考慮に入れた投資運用パフォーマンスの分析結果を投資機関や企業などに提供することで、投資を通じた脱炭素社会へのシフトを促進することを目的としています。OS-Climateでは今後1〜2年の間に、アセットマネージャーやアセットオーナーが活用するモデルをローンチする予定です。予定通りならば、各国の経済対策によって景気が刺激され、株式市場が徐々に活気を取り戻すタイミングでこの数値モデルが活用可能になるのではないかと考えられます。

 このように、欧米では脱炭素を中心とした気候変動対策と経済の回復の両立を実現すべく、産官学がすでに行動を取り始めています。ポストコロナ社会の構築に向けて、企業や個人が温暖化をいかに食い止めるかを真摯に考える時期だと考えます。
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