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新型コロナウイルス感染症と職場のハラスメント問題

2020年05月21日 小島明子


 日本労働組合総連合会(連合)が行った「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」において、「職場でハラスメントを受けたことがある」と回答した人は、全体の38%に上っています。受けたハラスメントの行動類型としては、「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃」が最も多くなっています(「その他ハラスメント」を除く)。しかし、ハラスメントを受けた人の44%が相談をしても無駄であることなどを理由に、誰にも相談をしていないとしており、ハラスメントを受けた人に対する十分なケアが職場で行われていないことがうかがえます。

 最近では、新型コロナウイルス感染症対策に伴い、リモートワークへの急な移行や、出社制限等を行い限られた人数での業務の遂行、出勤時間の短縮等による非正規雇用の賃金低下など、働く人たちの生活に大きな影響を与えています。そのような環境下で、働く人たちの精神的ストレスが増えれば、ハラスメントを増やすことにもつながりかねません。当社がSNSで投稿されている言葉について調査をしたところ、コロナとハラスメントに関する投稿数(注1)は、2020年1月にはわずか7件でしたが、2020年3月には6,165件まで増えています。投稿数の多くは、特定警戒都県が多く集まる関東(注2)であることも明らかになっています。もちろん、投稿内容のすべてが職場のハラスメントを指摘しているものばかりではありませんが、新型コロナウイルス対策で、ハラスメントへの問題意識が高まっている状況が想像できます。

 そうしたなか、企業は、従業員に対してどのような対策を行うことが必要なのでしょうか。
 厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」(平成30年)によれば、ストレスを相談した相手としては、上司・同僚、家族・友人が約7割と圧倒的に多く、事業場が契約した外部機関のカウンセラー、「こころの耳電話相談」等の相談窓口においては1%に満たない状況です。しかし、新型コロナウイルス感染症対策の自粛要請のなかでは、上司・同僚や友人に気軽に相談をすることは容易とはいえません。厚生労働省が提供している「こころの耳」や、事業所が契約をしている窓口等含め、相談できる場に関する情報提供をきちんと行っていくことが求められます。

 また、ポストコロナ対策としては、従業員のキャリアに対する不安へのケアも大切です。労働政策研究報告書「キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ」(平成29年3月)(労働政策研究・研修機構)によれば、キャリアコンサルティングの相談場所・機関として、最も多かったのは「企業外」(44.3%)であり、「企業内(人事部)」(12.5%)、「企業内(人事部以外)」(8.8%)は1割程度に留まっています。企業内の相談場所というと、人事評価への影響や周囲の目を気にして利用がしづらい人もいますが、従業員の意欲の維持等のためには、キャリアに着目した相談場所の整備は、益々重要になると考えます。

 今後、新型コロナウイルスの影響で、企業業績が悪化すれば、職場で働く人たちの不安やストレスが高まり、ハラスメントの増加やそれに伴う生産性の低下が懸念されます。そのような問題に対応していくためには、働く従業員のケアを早いうちから行っていくという視点が必要ではないでしょうか。

(注1)株式会社ユーザーローカルのsocial insightを基に、コロナ、ハラスメント、会社でフィルタをかけて投稿数の集計結果を算出
(注2)北海道・東北が10%、関東が50.3%、中部が15.1%、近畿13.7%、中国・四国5.3%、九州・沖縄5.6%


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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