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ビューポイント No.2020-007

【コロナショックをどう乗り切るか(4)】
医療・経済・財政のトリレンマと出口戦略の進め方

2020年05月18日 山田久


主要国では厳しい行動制限の実施により新型コロナウイルスの新規感染者数は減少に向かいはじめ、「出口戦略」が議論される段階に入った。もっとも、世界中に広がったウイルスの強い感染力と潜伏期間を考慮すれば、一気に経済再開に舵を切ることはできない。「出口戦略」は出口に向かって一気に進むというものではなく、「行きつ戻りつ」を繰り返しながら出口に近づいていく持久戦のプロセスと考える必要がある。一定の活動制限を残しつつ、また、活動制限の緩和と再強化を繰り返しながら、有効なワクチンの開発・普及などで集団免疫が獲得されるまで耐え凌ぐことが求められる。そうした状況下では、経済活動は回復に向かうがコロナショック前のレベルには当面戻らない「半値戻し経済」の状況がしばらく続くことになる。

「半値戻し経済」下では、企業業績は落ち込んだままで、雇用情勢の悪化はむしろこれからとなる。そうしたなか、経済が自律回復できない状況が続き、国民生活を守るために財政支援は継続せざるを得ない。その結果、厳しい活動制限からの「出口戦略」には、「医療」「経済」「財政」という、互いにトレードオフの関係にある3つの要素の間でどうバランスをとるのか、つまり、『医療・経済・財政のトリレンマ』をどう乗り越えるかが厳しく問われることになる。

トリレンマの打開策として、まず医療と経済を両立させるためのポイントは、「活動制限の緩和・解除・再強化の手順」と「感染リスクを極小化する業務手順」をそれぞれ明確化・標準化することである。とりわけ前者については、感染再拡大を防止するために、緊急事態宣言解除後も一人一人の国民が自主的に活動を制限するインセンティブを与えるよう、「透明性」の確保が重要になる。

経済と財政の両立には、「ウイズコロナ(感染症との共存)での可能な限りの経営資源の有効活用」、および「ポストコロナに向けた経営資源のシフト」の双方を進めることが必要である。それは、「半値戻し経済」下でも可能な限り財政負担を軽減し、危機終息後には経済成長率を引き上げて財政再建を迅速に進めることを目指すものである。「ウイズコロナでの可能な限りの経営資源の有効活用」では、①官民共同ファンドの活用、および、②「シェアリング型一時雇用」の活用を提案したい。「シェアリング型一時雇用」とは、稼働率が大幅に低下して休業を余儀なくされた産業・企業の従業員を、人手不足が続く分野に「レンタル」することで、労働力のミスマッチを解消する手法である。その普及に向けて、プラットフォームの提供・使用者責任の明確化・助成のための特別措置等の面での行政による支援が期待される。

「ポストコロナに向けた経営資源のシフト」が重要なのは、コロナ危機を経て、社会や経済の在り方が変われば、産業構造や企業の在り方、および雇用構造や労働市場の在り方も大きく変わっていくからである。それに対して今から準備しておくことが、コロナ危機が終息した後の経済成長力を左右する。経済と財政の両立の観点から言い直せば、財政再建には歳出抑制・増税・自然増収を組み合わせる必要があり、これら全てが経済成長率を高めることを要請するため、経済・雇用構造の転換により経済成長率を高めることが、ポストコロナの最優先課題になる。政策措置としては、官民ファンドの活用や再就職支援組織の創設、実践的な職業能力育成の仕組みづくりが求められる。

同時に重要なのは、事業構造・雇用構造の転換によって実現した企業の収益力の向上を、賃金の上昇につなげることである。賃金の持続的上昇を伴う経済成長こそ、医療と財政を両立させる鍵となる。医療の強化にかかる財政支出増のもとで財政の健全性を維持するには、健康保険料や税金を増やすしかなく、それは正に賃金の持続的増加が条件になるからである。

以上みてきた施策を有効な形で実施するには、医療界・産業界・国・自治体の密接な連携が必要になる。そのための仕掛けとして、有識者を集めた「“コロナ後”の経済社会に向けた中長期ビジョン(仮称)」の策定を開始することを提案したい。それをもとに首相を座長とし、関係閣僚、自治体首長代表、医療界代表、産業界代表、労組代表が一堂に会する会議を開催し、各界のコミットメントを引き出す。百年に一度の文字通り戦後最悪の事態における「国難」を新生日本の復興につなげるための、各界リーダーの使命感とリーダーシップがいま求められている。

医療・経済・財政のトリレンマと出口戦略の進め方(PDF:624KB)
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