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オンライン授業がもたらす教室の変革

2020年05月13日 木村典宏


学校教育へのコロナウイルスの影響
 新型コロナウイルスの感染拡大により、安倍首相は3月2日に全国の小中学校、高校、特別支援学校を対象として臨時休校を要請した。
 4月22日時点の文部科学省の調査結果(※1)によると、全国の幼稚園、小学校、中学校、高等学校および特別支援学校の91%が臨時休校を実施した。大学や専門学校でも約9割が開始時期の延期や遠隔授業を余儀なくされた。

 文部科学省では「臨時休業ガイドライン」を公表し、全国的な臨時休校期間中の家庭学習の手段として教科書に基づいた学習に加えて紙の教材だけでなく、オンライン教材等を活用した学習や同時双方向型のオンライン指導を通じた学習などを推奨した。
 しかしながら、4月16日時点の臨時休業した公立学校における取り組み状況の調査結果(※2)からは、動画やデジタル教材、オンライン指導等の学習方法は3割未満であった。

 教育現場でのICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)活用は近年の教育政策上の重要課題であり、文部科学省からもGIGAスクール構想として実現に向けたロードマップも提示されている(※3)。今後も臨時休校が続く環境下においては急速に改善が進んでいくと考えられる。

ICT環境の特徴
 現状では教育環境の危機的な対応として、既存の各種デジタル教材の活用や教室で行っていた授業を動画配信に置き換えるような取り組みが急速に、現場個々の努力が中心となって手探りで推し進められている状況である。
 教育政策に限らず、ICT環境の整備はそれ自身が目的化することが多く、本来達成すべき目的を見失う場合が散見されてきた。ICT活用の代表的なオンライン授業では、オンラインにアクセスできるかが教育格差の要因と考えられ、現在ではパソコンやタブレット端末などの整備に着目されている。しかし、それはあくまで入り口の課題であり、アクセス環境が整備されたとしても、活用レベルに応じてさらに大きな格差要因が待ち受けている。

 教育現場でのオンライン授業では、従来の対面授業と比較すると以下のような特徴の違いが考えられる。
【オンライン授業の利点】
 授業における地理的、空間的、時間的制約から解放される。
(例)
・授業の録画、保存による反復学習や欠席者への対応
・生徒の意見や質問等をリアルタイムで確認可能
・バーチャルな部屋割りによるグループワークの展開
【オンライン授業の問題点】
 同じ空間内で場を共有することによって生まれる意思疎通やコミュニケーションが消失する。
 (例)
 ・学習する場としての緊張感を持続させるのが困難
 ・表情、態度、仕草などの細かな動作による理解度や共感度の把握が困難
 また、不正などを考慮した利用実績のチェックも必要となる。

 これらの特徴から、オンライン授業では学ぶ意識が高い生徒においては非常に有用な学習ツールとなることが分かる。一方で、対面授業以上に生徒自身の自己管理能力が問われることになる。

ICT環境が生む教育格差
 オンライン授業の問題点である学習する場の緊張感の欠如に対して、生徒の集中力を高めるために、1回の映像授業の時間を15~20分程度と比較的短時間のコンテンツを継続的に配信し、視聴させる工夫などの対策が行われている。ここで考慮しなければならない重要な課題は、生徒自身の自己管理能力をいかに高められるかである。
 対面授業では自己管理能力が低い生徒でも空間的、時間的制約の中で学ぶことによって半ば強制的に学習する場が設定されている。この点、オンライン授業での強制力は、親を中心とした家族のサポートがあるとはいえ、弱いものにならざるを得ない。その結果、オンライン授業で学びを習得できるかは、生徒の自己管理能力に大きく依存することになり、格差を生むリスクは非常に大きいと考えられる。
 教育現場では「平等」であることが重要視されているが、オンライン授業ではこの「平等」という意味が改めて問われることになる。同じ授業を全員が受講する機会を与えるという意味で平等は達成されるが、実際には学びの習得状況は自己管理能力の差に大きく影響される。

ICT活用によって対面授業がより重要に
 ICT環境整備によってデジタル化されることの本質的な利点は、各利用者の詳細な実績データの活用である。デジタル化は、従来関係する人達の経験則として感じていた状況を、実際のデータに基づいた現状評価の共通認識を形成し、そこから最終的な目的達成に向けた効率的な取り組みや改善方法を示唆してくれる。
 誰が、いつ、どのような情報にアクセスし、その結果、どのような意見や質問、評価を行ったかを詳細に把握することで、各個人の学習状況やオンライン授業の成果が可視化される。この情報をいかに活用するかが、学びの格差解消や学習の定着化に重要な鍵となる。
 ICT化のメリットを本当の意味で享受しようとすると、データの分析から導き出される現状の改善が必須である。つまり教える側と学ぶ側の両面でPDCAサイクルを回せるかどうかが重要となる。
 教える側では、各生徒の能力に見合ったオンライン授業の準備に加えて、習熟度に応じた選択指示を行う必要がある。また、視聴実績や確認テスト結果などを反映してデジタル教材、オンライン授業の質の向上を図っていく必要がある。デジタルコンテンツの利点はコピーや編集の容易さにあるため、ここでは各教師のノウハウをオープン化・共有化して、実績データによる客観的評価を相互利用できるかが、より良質なデジタル教材やオンライン授業の実現に向けたポイントになる。
 学ぶ側では生徒自ら改善に導くという意味で、他の生徒との競争を促すような仕組みではなく、自分自身を成長させることを主眼におき、実績データを学習状況の見える化として行い、小刻みな達成感の醸成を促進するようなゲーミフィケーション的要素を仕組んだデジタル学習環境を与えることが考えられる。

 オンライン授業が普及すれば、教えることの効率化が可能な側面もあるが、実際には対面授業の重要性が増すと思われる。対面授業では教師と生徒、生徒同士のコミュニケーションの中から理解度・習得度を確認するとともに、映像では伝えられないことを学び習得する必要がある。
 対面授業の具体的な取り組みとしては、様々な習熟状況の生徒を混合させたグループワークによる生徒同士の学習機会を設定することが考えられる。グループワークでは知識を習得するよりも、知識を活用する機会として設定することで、生徒同士のコミュニケーションを活発化させ、より理解を深めさせる取り組みが有効である。
 結局は、オンライン授業と対面授業を通じて教育現場では、何を伝えて何を学んでもらうかが問われることになる。教育現場における平等主義とは、平等に指導することを実現することか、平等に理解させることを実現するかで取り組むべき内容は大きく異なる。

 学習塾であれば学力向上に特化できるが、学校では学力向上に加えて、人格形成や人間力を高めることも重要な学びの要素となる。これらをオンラインで実現できる具体策は未だ見えておらず、このような側面からもICT普及に伴って教室を中心とした対面授業という場の重要性があらためて再認識されることになる。

(※1)文部科学省ホームページ
・小中高等学校等の臨時休業の実施状況について(令和2年4月22日時点)
・新型コロナウイルス感染症対策に関する専門学校の対応状況について(令和2年4月22日時点)
・新型コロナウイルス感染症対策に関する大学等の対応状況について(令和2年4月23日時点)
(※2)文部科学省ホームページ
・新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について(令和2年4月16日時点)
(※3)文部科学省ホームページ
・GIGAスクール構想の実現のロードマップ

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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