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コロナ下の中小企業 オープンイノベーションで切り抜ける

2020年05月13日 橋爪麻紀子


 新型コロナウイルスによる景気縮小の影響を最も受けるのは、国内企業数の99%を占め、雇用の約7割を占める中小企業である。コロナ禍の収束見込みがまだまだ立たぬ中、2020年4月24日、中小企業庁は「中小企業白書・小規模企業白書」(注1)を公表した。それによれば国内の中小・小規模企業数は1999年を基準に減少し続けており、2016年以降は毎年4万社以上の企業が休廃業・解散しているという。特筆すべきは、そのうち6割が直前の決算期で黒字であったことである。これは、経営者の高齢化や後継者不足という大きな課題を示している。白書に付随し、昨今の新型コロナウイルスに関連した中小企業の状況も公表された。それによれば、全国1,050カ所に設置している「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」には、3月末までに中小企業から30万件近い相談(ほぼ全て「資金繰り」関連)が寄せられている。この件数は4月1日時点の情報をもとにしているため、短期的には今後さらなる件数の増加が考えられる。

 一方、先の白書には希望のある調査結果もある。例えば、差別化を行った、あるいは新事業に進出した中小企業の約4割が、業績の上昇や販売数値の増加につながったという点である。加えて、外部の技術やノウハウの活用によって、中小企業が新たな技術開発や製品・サービス創出が行われるようになっているという。いわゆるオープンイノベーション(注2)によって、生産性が大きく向上したという結果が見られたのである。この調査結果のような中小企業の動きは、この1~2か月に様々見られたのではないかと著者は考えている。以下、オープンイノベーションを3つの分類で考え、コロナウイルスに関連した事例に触れながら考察したい。

 まず、異業種間の連携を挙げる。中小企業の好事例として、「#SafeHandFish」プロジェクトがある。100%天然素材の除菌抗菌液を販売するクリア電子、調味料の小型容器の製造・充填を行う大石屋、企画とクリエイティブを行うエードットが立ち上げたものである。「魚型の醤油差し」に除菌液を充填し、食を通して除菌を習慣化させることを目指している。宴会やイベントの中止によって余った弁当用の調味料容器に除菌抗菌液を充填し、必要な人々に届けようとするものである。その他、仙台では顧客が減ってしまった地場のタクシー会社と飲食店グループが共同でテイクアウトの料理をタクシーが宅配する「タクデリ」サービスを始めた。このような、コロナによるビジネスの危機に直面しなければ発生しなかったビジネスが、市域の様々な場所で会社の枠を超えて生まれている。

 次に、オープンソースの活用である。例えば、東京都が開設したコロナ対策サイト(注3)は、Githubというオープンソース上で、様々な企業や個人のエンジニアが参加して開発されたものである。台湾のデジタル担当大臣もその改善の一部に参加したという逸話は一躍話題になった。また、4月17日、帝人フロンティアが医療用の使い捨てガウンの型紙を公開したことで、大小問わず各地のアパレルの縫製工場がそれをベースとしてガウンを作成し始めた。加えて、台湾のDr. Hsien Yung Lai(賴賢勇医師)が医療従事者を検体採取時の飛沫感染から守るために開発した「エアロゾル・ボックス」の設計図が無償公開され(注4)、日本国内でも医療分野から非医療分野の中小企業(注5)がその設計図をもとにエアロゾル・ボックスを地域の医療機関へ提供し始めている。

 最後に、マッチングとシェアリングである。キャディ株式会社はAIを駆使し、様々な金属加工製品の受発注と中小製造業のマッチングを行っている。4月13日、同社は新型コロナ対策として人工呼吸器や空気清浄機などの医療関連機器や物資を増産するメーカーへの部品供給支援を始めたことを公表した。また、株式会社Mellowは飲食事業者向けMaaSサブスクリプションビジネスとして、4月27日より「フードトラックONE」を始めた。深刻な影響を受けている飲食業界で、フードトラックによる開業や業態転換を目指す事業者の資金負担を低減できる。例えば、東京都による新型コロナウイルス感染症の緊急対策では、飲食店の業態転換支援助成金の対象に、移動販売における車両リース(最長3カ月間)も含まれている。このような遊休リソースと、今それを必要としている人たちとつなげることで新たなビジネスが生まれているだけではなく、既存のリソースを有効活用することで生産性の向上にもつながっていると考えられる。

 ここで取り上げたオープンイノベーションは、今国内で起きている事象のほんの一例に過ぎない。このつらい局面を皆でどうにか乗り越えようと、企業や個人がその枠組みを超え、各自ができることから着手し始めているものである。この有事が、企業や個人が社会との関係性を再考するきっかけとなり、自発的で互助的な社会課題解決型ビジネスこそが当たり前の世の中になっていくのではないだろうか。様々な調整が必要な大企業に比べ機動力のある中小企業が、新たな事業分野に展開をするチャンスと捉えることもできる。長引くコロナ禍を乗り越え中小企業が生き延びるため、マッチングやシェアリングによって、または企業自らの意志と行動によって、新しい異業種連携、新しい事業展開につながり、この事態を乗り越えられることを強く願う。

(注1)中小企業庁「中小企業白書・小規模企業白書」、
URL:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/PDF/2020_pdf_mokujityuu.htm

(注2)オープンイノベーション:2003年に米UCバークレービジネススクールのヘンリー・チェスブロー教授が提唱。イノベーションを起こすための知識や情報に対する社内外の境界をなくし、自由に出入させることでイノベーションの創出を目指す考え方。

(注3)東京都「新型コロナウイルス感染症対策サイト」、
URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

(注4)Dr. Hsien Yung Lai 個人サイト、
URL:https://sites.google.com/view/aerosolbox/design

(注5)KOTOBUKI Medical(埼玉)、コムネット(兵庫)、テッセランド(東京)、DBYM(高知)等(*著者が執筆時点で確認)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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