RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.77 インド経済は再び高成長路線に復帰出来るか 2020年05月19日 熊谷章太郎インド経済は2019年後半に急減速し、2019年度(2019年4月~ 2020年3月)の実質GDP成長率は約10年振りの低い伸び率となる見込みである。景気急減速の主因としては、大手ノンバンクのデフォルトをきっかけとした信用不安や販売制度変更を受けた自動車販売の不振を指摘出来る。また、財政赤字削減に向けた引き締め気味の財政政策、世界景気の減速を受けた輸出低迷、失業率上昇に伴う消費低迷、政治の不安定化による消費・投資マインドの悪化なども景気下押し圧力となった。政府は消費・投資のテコ入れに向けて様々な経済対策を打ち出しており、2020年初には一部の経済指標に底打ちの兆しがみられた。しかし、2020年2月以降、大手民間銀行の経営難を受けた信用不安の再燃、新型コロナウイルスの拡大を受けた世界景気の大幅悪化やインド国内の感染拡大防止に向けたロックダウン(都市封鎖)などにより、景気は二番底に向かいつつある。一段の財政・金融政策の拡大余地が限られることを踏まえると、新型コロナウイルス終息後の景気底入れ後の持ち直しペースは緩慢なものとなる公算が大きい。インド経済が再び高成長路線に復帰するためには、経済構造改革をこれまで以上に加速させることが不可欠である。インフラ整備を通じた製造業振興およびそれに伴う雇用創出や生産性向上などを目指すうえで必要となるのが、第1次モディ政権下で停滞していた土地収用法と労働法制の改革である。これまでは上院・下院間の「ねじれ」が解消するなかでこれらの分野の改革にむけた機運が高まっていくと予想されていたが、上院の議席を左右する州議会における与党連合のプレゼンスは後退しつつあり、現状は予断を許さない状況にある。金融面では、国営銀行の経営効率改善やノンバンクの財務体質の健全化につながる取り組みを着実に実行していく必要がある。ただし、貸出抑制につながる規制厳格化は資金供給面から成長を制約するとともに、相対的に規制が緩い金融セクターへの与信依存の増大シフトを通じて別の金融リスクを生じさせる恐れがあるため、それらに配慮しながら改革を進めることが肝要である。 関連リンク《RIM》 Vol.20,No.77・中国経済の減速と民営企業-なお続く「国進民退」(PDF:1407KB)・中国の新しい外資誘致策-先端技術・ノウハウの取り込みが焦点(PDF:593KB)・ASEAN諸国におけるフィンテック拡大の現状および金融システムと経済への影響(PDF:1576KB)・アジアにおける気候変動問題の深刻化とグリーン・ファイナンスの現状(PDF:1248KB)・CASE 革命の進展と韓国企業-システム半導体事業強化の契機にするサムスン電子(PDF:862KB)・インド経済は再び高成長路線に復帰出来るか(PDF:1383KB)