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JRIレビュー Vol.6,No.78

持続可能な観光振興に向けた地域独自財源の在り方-財源のベストミックスを

2020年05月28日 高坂晶子


2003年の観光立国宣言以来、わが国はインバウンドの誘致を主体に観光振興に注力してきた。国が自治体のインバウンド対応を支援する施策も広く行われてきたが、2021年に延期された東京オリンピック・パラリンピックをもって、これらは一段落する見通しである。各地方は国に追随してきた従来の施策を見直し、より自律的、主体的に観光振興に取り組むことが重要となる。本稿では、そのために必要な地方の独自財源に注目し、法定地方税、法定外地方税、協力金、分担金・負担金、事業収入について、調達と活用の在り方を検討する。

近年、観光対応の独自財源として、自治体が地方税とくに法定外目的税である宿泊税を活用しようという動きがみられる。すでに徴収を始めている京都市はオーバーツーリズム対策の強化に、金沢市は新幹線の延伸で急増した観光客対応に税収を活用している。本年4月からスタートする福岡県と福岡市は同時期に宿泊税を導入しようとしたため調整が必要となり、宿泊者の負担感が不当に高まらないように税額を設定した。そのほか、今後の宿泊税導入に向け、有識者委員会を設置したり議会で取り上げたりしている自治体は現在20以上に上っている。

観光目的の法定外税などの新税を導入する場合、新たな税目を創設してまで満たすべき行政需要の内容と具体的活動に当たる「使途」、宿泊など課税の「対象」とそれを選択した根拠、税率・税額を含む「徴収方法」、課税対象に税を課す地方自治体等の「課税主体」、「関係者への影響」などについて、論理的な妥当性が求められる。さらに、総務省との協議・同意が要件となっているため、法定外税を導入するハードルは決して低くはない。

税以外の観光財源としては、①観光客から任意で集める協力金、②観光振興策の受益者から資金を集めて施策を実行に移す分担金・負担金、③入場料や地域交通の利用料金などの事業収入に大別される。ただし、わが国ではいずれも制度面の整備が進んでおらず、本格活用は今後の課題である。

海外では多様な財源を活用して観光振興に成功している例がみられる。 ハワイでは、宿泊税を活動原資とする州観光局が、人気観光地としてのブランディングや主要市場向けのきめ細かいマーケティングを行い、来訪者数の増加に貢献している。その一方、目的税として導入された宿泊税が、その他の用途に転用される一般財源化に向かうなど、矛盾も生じている。
カリフォルニア州では、観光産業改善地区(TID:Tourism Improvement District)と呼ばれる地域を限定し、そこに立地するホテル、娯楽施設や会議場、レンタカー等の事業者から分担金を集めてDMO(観光振興組織)の財源とし、プロモーションやイベント、キャンペーン活動を行っている。徴収した財源の使途の明確性や活動の透明性に優れている。
バルセロナ市では、市のDMO自らが、ツアー商品の販売や交通機関の運営を担い、得られた事業収入をMICE(国際会議や見本市等)誘致などの観光振興策に充てている。同DMOは、世界でも公的補助の少ない組織の一つであり、それにより独立性、機動性を確保している。

海外の事例をみると、税や協力金など財源のタイプはまちまちであり、そこに至った事情も様々である。わが国では、足もと、宿泊税の創設に取り組む自治体が多いものの、今後は、地域事情に合わせて様々なタイプの財源を検討し、最適な選択を行うことが重要である。財源が必要な理由や使途、規律ある運営を担保するガバナンス等を勘案しつつ、複数のタイプを活用する「ベストミックス」による独自財源の調達が望まれる。とりわけ、アメリカで活用事例の多いTIDは、使途の明確性や活動の透明性などに優れ、今後わが国でも積極的に検討すべき仕組みと考えられる。

(注)新型コロナウィルス感染症により、観光をめぐる状況は本稿執筆時点と様変わりした。観光業の苦境が相当程度続くと見込まれ、オーバーツーリズム対応など財源を新規調達して対応すべき行政需要も一時的には大きく減少しよう。しかし、中長期的にみれば観光振興はわが国地域の重要課題であること、独自財源の開拓には時間を要すること等を踏まえ、内容の見直し等は行わなかった。なお、ポストコロナの観光振興の在り方については、稿を改めて検討する予定である。
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