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JRIレビュー Vol.11,No.83

保育士の採用システムの現状と課題-保育の質向上に向けた効果的・効率的な採用の在り方

2020年05月08日 池本美香


保育士不足が深刻化するなか、国は賃金の引き上げや業務負担軽減のためのICTの活用促進などを行っているが、保育施設における重大事故の増加など、経験の浅い保育士の増加に伴う保育の質の低下が懸念されている。本稿では、保育士不足の解消および保育の質確保に向けた手法の一つとして、保育士の採用システムの在り方について考察した。

保育士の採用に関して生じている問題としては、次の5点が挙げられる。一つ目は、採用が若年層中心になっており、若年人口が減少するなか採用が難しくなっていること、また新卒採用については、応募する側が複数の園を比較検討せずに、学校の求人票や実習先など一園に応募する傾向があり、その結果としてミスマッチが生じやすく、人間関係などで早期離職する人が多いことである。

二つ目は、採用難は私立園が中心で、公立園は高い採用倍率となっていることである。公立園人気の背景には、将来的に子どもの数が減り、保育ニーズが減少することが予想されるなかで、雇用の安定性、将来的な賃金の上昇、異動で多様な経験ができ、人間関係も固定化しないことがある。そのため、私立園での保育の質の低下が懸念される。

三つ目は、保育事業者がハローワークなど公的なルートでは採用できず、人材紹介業者を利用するケースが増え、その紹介料の負担が重くなっていることである。人材紹介サービスは応募する保育士の側から見て、細かな条件など情報が収集しやすいことに加え、業者によっては就職決定時にお祝い金が支払われることなどメリットが大きい。

四つ目は、採用に際し犯罪履歴のチェック体制が必ずしも十分ではないことである。保育士の登録に取り消し漏れがあり、わいせつ行為などの犯罪で刑事罰を受けた保育士が働ける状態にあった事例も報告されている。取り消し漏れが防げたとしても、最初の保育士登録時の犯歴等のチェックは自己申告であり、刑を終えて2年が経過すれば再度保育士として登録が可能であるなど、不安が残る。

五つ目は、地方においても保育士の採用に苦戦していることである。待機児童解消のために、都市部では家賃補助など給与面での魅力が高まったため、地方での保育士応募が少なくなり、人材紹介業者を通じて採用せざるを得なくなっている。

こうした保育士の採用をめぐる問題に対して求められる対応策としては、第1に、保護者の採用とそのルート拡大である。子育て経験のある母親や定年退職者などの採用は、園児の保護者とのコミュニケーションの円滑化など、量的充足だけでなく保育の質向上の観点からもプラスであり、実際、園児の保護者から採用している保育事業者も少なくない。

第2に、保育士の将来にわたるキャリア形成の支援が求められる。潜在保育士の再就職支援を担う保育士・保育園支援センターで、保育士のキャリアを生かした転職活動の支援も行っていくことなどが考えられよう。

第3に、人材紹介サービスの在り方についても議論が求められる。公的な人材紹介の機能強化が期待され、その際、人材紹介業者のノウハウを活用することが考えられる。

第4に、犯罪履歴のシステマティックなチェック体制の構築である。海外の取り組みを参照し、子どもへの接触が不適切な者に対する就業を制限する制度を導入することについて検討すべきである。
2000年にできた児童虐待防止法における児童虐待は「保護者がその監護する児童について行う行為」に限定され、保育士の不当な行為を防止する法律がないことも問題である。

第5に、地域間で保育士の獲得競争をするのではなく、都道府県ごとにある保育士・保育園支援センターを一元化し、全国を対象に求人・応募ができるような仕組みを設け、採用活動を広域化することが考えられる。全国の採用に関する情報を一元化することで、採用困難な施設への支援の充実が期待される。
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