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アフターコロナを見据えた地方の中小企業経営と産業支援のあり方
~前倒しで訪れた社会変動への早期の対応の必要性

2020年05月07日 佐藤善太


 新型コロナウイルスの感染拡大は、幅広い業種で企業経営に影響を与えている。4月17日に緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、地方でもその影響は拡大している。未だ事態の収束時期が見通せない中、地方の中小企業においては、従業員やステークホルダーの安全確保と、企業としての存続に向けた資金繰り等が重要課題となっている。行政・産業支援機関も、これらの課題に対応する支援策を講じている。
 こうした緊急対応の先で、アフターコロナの社会を見据えたとき、地方の中小企業や支援機関がとるべき対策はどのようなものであろうか。ここでは、従前から中小企業にとっての重要テーマであった「人材の確保」と「販路・売上拡大」という2つの観点から考察する。

アフターコロナの人材の確保に向けて

(1) 「ニューノーマル」化を見据えたリモートワーク環境整備
 新型コロナウイルスの影響により足下の人材需要は停滞しているが、ビフォーコロナの状況下では、中小企業は業種を問わず人手不足に苦しんでいた(※1)。現状の危機を乗り越えることが最優先ではあるものの、その先で人材確保が可能となるよう、アフターコロナを見据えた働き方を実現することも中小企業に求められている。
 目下、感染拡大抑止のためにリモートワーク環境の整備が急ピッチで進められている。しかし、東京商工リサーチが3月27日~4月5日に実施した調査によると、回答時点でリモートワークに取り組んでいる大企業は47.2%であったのに対し、中小企業は20.9%に止まった(※2)。中小企業にとってこの遅れが将来的にもたらす影響は大きい。通勤・移動時間の削減や、自由時間の増加、オフィスよりもかえって業務効率が高まるといった理由から、一定数の実践者たちが現在の事態収束後もリモートワークの継続やさらなる拡大を望んでおり(※3)、リモートワークがアフターコロナの社会の「ニューノーマル」(新しい標準形)となる公算が大きいからである。まずは公的助成等も活用し、最低限の環境整備から始めることが望まれる。
 ただし、リモートワークに対しては、同僚とのコミュニケーションや情報共有、集中力やプライベートとの切り分けを維持する自己管理の難しさ等を課題として挙げる声も多く(※4)、リモート環境での快適な働き方を見いだす工夫が重要となる。互いの状況が見えづらいリモート環境で円滑にコミュニケーションするために、業務外の話題も含めて話す機会を意識的に設けたり、チームリーダーとメンバーの定例的な1on1ミーティングを導入したりするなど、この機に従来のコミュニケーションスタイルを見直すことも考えられる。こうした工夫を講じ、定着させることは、職場の魅力の向上や、将来の人材確保につながり得る。

(2) 多様な働き方・働き手の受け入れ
 リモートワークの普及により、働く場所と住む場所の関係性も大きく変容することが予想される。地方の中小企業においても、多拠点居住しながらリモートワークで働くスタイルや、副業・複業を受け入れることで、採用機会が大きく広がる可能性がある。また、在宅・短時間勤務を取り入れれば、子育てや介護と両立しながら少しでも働きたいと考えている人や、通勤に困難を抱える障がいを持つ人の力を活かす余地が生まれる。
 こうした多様な働き方・働き手を受け入れるための人事制度を設計することも、アフターコロナの人材確保に向けた備えとして有効と考えられる。

(3) 働き方の変革と地域単位の人材マッチングに向けた支援
 行政・産業支援機関には、中小企業のリモートワーク環境整備や人事制度の見直しに向けた支援等を通じて、地域におけるアフターコロナの社会に適応した働き方の実現を推進していくことが期待される。
 加えて、地元企業の人材確保や育成を地域単位で円滑化する仕組みを導入・強化することも望まれる。こうした仕組みは「まちの人事部」とも呼ばれ、副業・複業や地方での就業を望む人材と地域の中小企業のマッチング等の取り組みが、既に各地に広がってきている(※5)。また、「ふるさと兼業(※6)」など、兼業・プロボノ希望者と地域の企業・団体等を橋渡しするウェブサービスも登場しており、こうしたサービスを活用しつつ地域単位の人材マッチングの仕組みを整えることも選択肢となるであろう。

アフターコロナの販路・売上確保に向けて

(1) 企業間連携も活かしたオンラインサービスへの移行
 外出自粛が求められる中、実店舗からECへの移行、リアルイベントのオンライン開催への移行、教育・研修のウェブセミナー化など、既に幅広い領域でビジネスのオンライン化が進んでいる。消費者心理としても、巣ごもり消費の期間が長く続くことで、オンラインサービス利用の優先度が高まっていく可能性は極めて高い。
 3月6日~17日に行われたアジアでの消費者調査(※7)によると、新型コロナウイルスの感染収束後も自宅での食事を優先すると回答した人の割合は日本では30%であった。中国(86%)など他国に比べるとかなり少ないが、その後の緊急事態宣言を経て、この割合は高まっているものと想定される。消費者行動の変化は、シニア層にも広がっている。博報堂が行った60歳以上のアクティブシニアに対する調査(※8)によると、新型コロナウイルスの流行以降にオンラインでの行動が増えており、さらに今後も50%超の人がネットニュースの利用、25%程度の人がネットショッピングやSNSの利用が増える見込みと回答した。
 地方の中小企業においても、ビジネスのオンライン化は重要な課題であるが、情報システムに関わる人材・ノウハウの不足から、単独で素早いオンライン化を実現するのが難しいケースも多い。そうした個社のリソースの不足を乗り越える選択肢の一つが、企業間連携である。例えば福島県では、既存販路への出荷の見合わせや、催事の中止、観光客向け販売の低迷等により積み上がってしまった食品の在庫をオンライン販売する「ふくしま!浜・中・会津の困った市 通販」が立ち上げられた。4月27日時点で46社の食品が販売され、好評を得ている。こうした企業間の連携は、現在の緊急対応に加え、アフターコロナの販路・売上獲得に向けても有益といえる。

(2) 「考える消費者」と関係を築くデジタルコミュニケーション
 外出自粛に伴ってオンラインでの情報収集やコンテンツ消費が増えていることで、情報発信のあり方にも変容が求められている。上述のとおりシニア層においてもオンラインでの行動が増加しており、高齢化の顕著な地方においても、消費者とのデジタルコミュニケーションの重要性が高まっている。
 では求められるコミュニケーションとは、どのようなものであろうか。米国の経営学者フィリップ・コトラーによれば、デジタル化の進んだ社会での消費者とのコミュニケーションにおいて、「人間中心のマーケティング」が高まる。大量の情報が流れるデジタル空間の中で消費者との関係を築くには、完璧な存在ではなく欠点があることを認め、信用できる正直な存在となることが重要とする。このコミュニケーションスタイルは、困難に直面する今の中小企業にとって適合的と考えられる。経営資源の制約の中でどのような問題を抱えているのか、その中でもどのようなこだわりや理念をもって事業を継続・発展させていこうとしているのか、率直に発信することは、消費者との今後につながる信頼関係を築く一助になると思料する。
 また、こうした情報発信は、自らの消費行動で社会の課題解決に貢献しようとする「考える消費者」とつながるうえでも有益といえる。売上停滞にあえぐ飲食店やイベント事業者を、前払いチケット購入やクラウドファンディングで支援する活動などに見られるように、「考える消費者」の存在は大きくなっている。コロナ危機の中でこうした消費者と新たな関係を築くことは、アフターコロナの経営にもプラスに作用するであろう。

(3) 地域内連携と情報発信に向けた支援
 行政・産業支援機関においては、地域の企業のオンライン・非対面型サービス導入に向けた支援が令和2年度補正予算に基づく国の補助等を活用しつつ進められている。これと併せて、緊急対応に追われる中ではあるが、共通の課題を抱える事業者間の連携を後押しし、平時にはなかなか進みにくい地域内の企業間連携を促進していくことや、地域内企業の情報発信を媒体提供等によりサポートしていくことも望まれる。

急速な社会変動を捉え適応する必要性

 本稿でここまでに触れてきたリモートワーク対応、多様な働き手・働き方の受け入れ、ビジネスのオンライン化やデジタルコミュニケーションといった取り組みは、コロナ危機が表面化する前から必要性が認識されていたものであった。新型コロナウイルスのもたらした急速な社会変動は、これらの取り組みへの対応を事業者・地域へ前倒しで要請している。この変化を捉え、適応していくことが、アフターコロナの企業経営と地域の持続可能性につながるものと思料する。

(※1)厚生労働省が発表する有効求人倍率は2020年3月に3年半ぶりの低水準(1.39倍)となったが、中小企業基盤整備機構「中小企業概況調査」では、従業員数の不足感を示す指標が2013年第4四半期から全業種でマイナスとなり、以降2019年第4四半期まで低下傾向で推移していた。
(※2)東京商工リサーチ「東京商工リサーチ「第3回新型コロナウイルスに関するアンケート調査
(※3)NTTデータ経営研究所「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方に関する調査」(調査期間:4月7日~10日)では、リモートワーク実施者の52.8%が継続・拡大を望んでいると回答した。
(※4)前掲のNTTデータ経営研究所調査結果を参照。
(※5)拙稿「【地域発イノベーションを考える】中小企業の人手不足対策の選択肢」を参照。
(※6)URLはこちら
(※7)詳細は次を参照。ニールセン「"COVID-19 Where consumers are heading?" Study」
(※8)博報堂シニアビジネスフォース×趣味人倶楽部コミュニティラボ「アクティブシニア」緊急調査

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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