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アジア・マンスリー 2020年5月号

中国経済のV字回復は期待薄

2020年04月28日 関辰一


中国では、新型コロナの下押しで経済活動が全国規模で縮小した。所得の下振れ、感染対策の継続、外需の縮小、サプライチェーンの混乱を踏まえると、当面、経済活動はコロナ前の水準を下回ると見込まれる。

最悪期を脱すも、回復ペースは緩慢
1~3月期の中国GDP成長率は前年同期比▲6.8%へ大幅に下落した(右上図)。小売売上高、固定資産投資、輸出はそれぞれ同▲19.0%、▲16.1%、▲13.4%であった。新型コロナウイルスは、リーマン・ショックを遥かに超えるダメージを中国経済に与えた。昨年暮れに湖北省武漢市で感染者が確認された後の初動は遅かったものの、中国政府は1月後半から約1カ月間、全国規模で市民の移動や外出、工場の操業や店舗の営業、建設工事を制限した。この結果、経済活動が急速に縮小した。

最悪期には、武漢のみならず北京や上海などの主要都市でも、出歩く人の数がコロナ発生前から7割減少した(右下図)。累計感染者数が全国の1.7%であり、武漢から遠く離れている広東省でさえ、7割超の企業が操業を停止した。他の省も同じく、工場の操業や店舗の営業、建設工事がほぼ停止していたと予想される。

こうした思い切った対応により、中国経済は最悪期を脱しつつある。政府は2月、国内の感染拡大がピークアウトしたと判断し、経済活動の再開を指示した。これを受け、人の往来が増え、操業や営業を再び始める動きが全国に広がり、経済活動は回復途上にある。

もっとも、経済活動の回復ペースは緩慢である。自動車や鉄道、航空機、船舶を使った旅客輸送量は4月後半時点でさえ、前年の同じ時期と比べて、6割減の状況である。3月の自動車販売台数は前年同月比▲43.3%、飲食店の売上高は同▲46.8%の減少と厳しい状況が続いている。主要都市で出歩く人の数も、このところ復調に足踏みがみられる。操業や営業を再開した企業は、需要の大幅減少に直面している。この背景として、まず所得の下振れが指摘できる。1~2月の工業企業の利潤総額は前年同期比▲38.3%であり、とりわけ飲食・宿泊、運輸、卸小売の収益下振れが大きい。企業は資金繰り難に直面し、すでに投資の先送りや人員削減、賃金カットの動きが一定規模生じている。実際、2月の失業率は6.2%へ大幅上昇した。本統計は、全国都市における世帯訪問による調査の結果であり、都市戸籍を持たない農民工も調査対象である。政府は2017年1月以降の月次データを公表しているが、これまで最低4.8%、最高5.4%である。失業者が急増するなか、1~3月の一人当たり可処分所得は前年同期比+0.8%増と、昨年通年の前年比+8.9%増から大幅に下振れた。

このほか、感染対策の継続も要因の一つである。4月半ば時点でも、鉄道の乗客に間隔を空けて座るよう促したり、飲食店の営業を規制したりする対策は残っている。習近平国家主席が座長を務める中央政治局常務委員会は同月8日、経済活動の再開の方針を再確認しつつも、感染対策の重要性を強調した。新型コロナウイルスの世界的な流行が収束しない限り、出入国規制だけでなく、こうした感染対策も続けざるを得ない。

所得の下振れや外需の縮小が重しに
今後を展望すると、所得の下振れと感染対策の継続が引き続き重しとなるほか、外需の縮小も鮮明化する見込みである。新型コロナの流行は世界180カ国超へ拡大し、世界保健機構(WHO)も3月にパンデミックを宣言した。各国政府も程度の差はあれ、中国と同様な活動制限を相次ぎ講じた。大恐慌以来最悪とも言われる世界経済の下振れによって、外需はリーマン・ショック時以上に落ち込むリスクがある。
さらに、サプライチェーンの混乱も経済活動を下押しするとみられる。海外諸国における工場の操業停止や出入国制限によって、世界的に物流と人の往来にブレーキがかかりつつある。2月に中国から日本への輸出が半減したように、各国から中国への輸出も大幅減少しかねない。中国政府が経済活動の再開を指示したとしても、製品・部品のサプライチェーンが混乱すると、企業の生産活動は平時の水準までなかなか戻らないとみられる。

こうしたなか、中国政府は矢継ぎ早に対策を講じている。もっとも今回の経済対策は、中小企業の倒産や雇用の悪化を回避するためのセーフティネットが中心である。具体的には、企業向け社会保障費の減免や減税、国有銀行による中小企業向け融資の拡大、企業の利払い延期、雇用調整助成金の支給などであり、これらによって資金繰り難に直面する中小企業を支援する方針である。商品券の配布、5G関連投資の拡大、自動車の購入規制緩和なども講じられたものの、需要刺激策は総じて限定的である。今後外需が大きく下振れかねない現状でも、中国政府はリーマン・ショック時のような銀行融資や公共投資の急拡大に対して慎重姿勢を崩していない。過剰債務問題・不良債権問題の深刻化を防ぎたいという考えに加え、コロナの流行が終息し、感染対策が撤廃されない限り、需要刺激策を打っても十分な効果は見込めないためである。

一部では、特別国債の発行で大規模な消費刺激策が打ち出されるという期待もあるものの、特別国債の用途は救急医療能力の強化、感染予防体制の構築、地方医療診察治療能力の強化、都市化のためのインフラ整備など4カテゴリー32項目に限定されている。加えて、インフラ投資は拡大したとしても前年比1割程度の増加とみられ、リーマン・ショック後のような5割増は期待できない。

当面、経済活動は力強さを欠き、4~6月期は2期連続のマイナス成長と予想している。年後半も巡航速度を大きく下回り、2020年通年では44年ぶりのマイナス成長になる見通しである。新型コロナの流行度合いと感染対策をみると、欧米は中国から1カ月、日本は2カ月ほどタイムラグがある。中国の経験は、世界に対して新型コロナの経済への影響が如何に大きく、V字回復が難しいかを示唆することになろう。
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