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アジア・マンスリー 2020年5月号

着実な成果が見られたベトナムのTPP11参加

2020年04月28日 塚田雄太


約1年前に発効したTPP11に対する不信感がベトナムで強まっている。しかし、TPP11批准国の輸入に占めるベトナムのシェアはトレンド以上に拡大しており、TPP11参加は成果をもたらしたと評価できる。

足元で強まるTPP11への期待外れ感
ベトナムで「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下、TPP11)」が発効してから1年3カ月が経過した。発効当初、ベトナム国内ではTPP11でベトナム経済は多くの恩恵を受ける、という見方が大勢であったが、2020年入り後、現地報道や輸出企業などでTPP11が期待外れだったとの論調が強まっている。

確かに、2019年のTPP11批准国(オーストラリア、カナダ、日本、メキシコ、ニュージーランド、シンガポール)向けの輸出は芳しくなかった。国別でみると、カナダ、メキシコ向けでは増勢が加速したものの、日本、ニュージーランド、シンガポール向けでは減速し、オーストラリア向けは減少に転じた(右図)。これらを見る限りでは、TPP11に参加したにも関わらず、期待されていた輸出増加が実現しなかったとの批判が生じるのもやむを得ない。

しかし、輸出の動きを正しく評価するためには、ベトナム自身の輸出競争力だけでなく、外部環境や輸出相手国の景気動向からも大きな影響を受けることも考慮する必要がある。そこで以下では、ベトナムのTPP11参加の成果を様々な角度から考察した。

批准国景気の減速が輸出を抑制
結論を先に述べると、2019年のTPP11批准国向け輸出の減速は、TPP11の問題というよりも批准国景気の悪化が主因であった。

TPP11批准国の景気は、2018年半ば以降、減速トレンドへと転じた。米中間の関税引き上げの応酬による中国経済の減速や、それを受けた世界景気の悪化が原因とみられる。批准国景気の減速は、雇用・所得環境や設備投資マインドの悪化を通じて批准国の輸入を抑制した。実際、2019年の批准国の輸入は前年比▲3.1%と、3年ぶりの前年割れであった。輸入品需要の縮小はベトナム製品にも及んだため、この結果、2019年のベトナムからの批准国向け輸出が伸び悩んだと考えられる。

ベトナム製品のシェアは確実に拡大
ベトナムのTPP11参加による効果を捉えるには、こうした批准国景気減速の影響を捨象する必要がある。その場合、批准国の輸入総額に占めるベトナムのシェアの変化をみる方法がある。これは、輸入国景気が悪化し、輸入需要が縮小する局面でも、輸出国の競争力が高ければ、輸入総額に占めるシェアは上昇すると考えられるからである。

しかし、ここで注意すべき点がある。それは、世界の輸入に占めるベトナムの存在感が趨勢的に高まっていることである。2000年に0.22%だった世界輸入に占めるベトナムのシェアは、2018年には1.23%と、約20年で6.2倍に拡大した。
このように世界の輸入に占めるベトナムの存在感が高まった背景には、グローバル化を最大限に活用したベトナムの特徴的な成長モデルがある。ベトナムは1986年の「ドイモイ」導入以降、対外関係と投資環境の改善に取り組む一方で、安価かつ豊富な労働力を活用し、外資・輸出志向型製造業主導の経済成長モデルを作りあげてきた。すなわち、ベトナムは労働集約的で低付加価値の輸出偏重経済ではあるものの、自国をグローバル・サプライチェーンに積極的に組み込んでいったことで、世界の輸入市場における存在感を高めることに成功した。

TPP11批准国でもベトナム製品の存在感の高まりを確認できる。TPP11批准国の輸入に占めるベトナムのシェアは、資源輸入の割合が高いオーストラリアや、中継貿易拠点のシンガポールでは振れが大きいものの、それ以外の4カ国では趨勢的に上昇している。したがって、TPP11の効果を正確に把握するためには、この構造的な変化を取り除いて考えなければならない。
そこで、まず、2000~19年の批准国輸入に占めるベトナムのシェアから長期トレンドを抽出し、その長期トレンドを構造的なベトナム製品の競争力向上分とした。次に、2019年における長期トレンドと実際のシェアの差分をTPP11による効果と考えた。

2019年の批准国の輸入に占めるベトナムのシェアは、シンガポールを除く5カ国で長期トレンドを上回った。世界的に景気が減速するなか、ほとんどの国で輸入シェアが上振れたわけであり、TPP11にはプラスの効果があったといえる。シンガポールを含む批准国すべての上振れ幅の合計は0.27%ポイントに達し、これによって、2019年のベトナムのGDPは0.31%ポイント押し上げられたと計算される。すなわち、TPP11への参加がなければ、2019年のベトナムの経済成長率は+7%割れとなり、米中対立の中でも堅調であったというベトナム経済への評価が大きく揺らいだ可能性を示唆している。

期待される自由貿易の推進
以上の議論を踏まえれば、ベトナムのTPP11参加は決して期待外れではなく、むしろ十分な効果を発揮したと評価すべきであろう。

2020年は新型コロナの感染拡大により、世界景気は大幅な悪化が見込まれる。さらに、国際間のヒト・モノの移動に対する抵抗感が強まるなかで自由貿易への風当たりも強まる可能性もある。そうしかなかでも、TPP11への不信感を払しょくし、中長期的に自由貿易の枠組みをさらに拡大し続けることができるか否かが、ベトナム経済の持続的成長を見通すうえでの注目点となろう。
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