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感染症を想定した事業継続計画(BCP)の点検を

2020年04月28日 太田康尚


■感染症を想定したBCP整備状況
 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックを機に、感染症を対象とした事業継続計画(BCP)の整備・見直し機運が高まっている。地震など自然災害を想定したBCPを整備している企業数は増えてきたが、感染症を想定したBCPを策定している企業は依然として少ない。すでに感染症を想定したBCPを整備している企業の多くは、2002~2003年に感染拡大したSARSをきっかけに整備している。ただし、さらにBCPに基づく具体策として10年以上前から不足が予測されていたマスクなどの備蓄を進めていたのは、意識の高い一部の企業に限られる。

 いつ発生するか分からない事態に備えて文書整備に労力を費やすことを敬遠する企業もある。
 BCP策定の目的は多くの文書を作ることではなく、「事業を継続し社会的な責任を果すために想定可能な事態にどこまで備えるかを議論し必要な対策を吟味し備える」ことが本質的な目的である。このプロセスを踏んでいるか否かが対応の質を左右する。

 新型コロナウイルスは現時点(2020年4月)では蔓延期にあり、しばらく繰り返すことが想定されている。これまでの対応を振り返りつつ、第1波の克服、収束し復旧に向けたシナリオ策定、第2波への備えは、今だけでなく将来発生し得る事態への対応のために欠かせない。

図表1 国内発症者数推移と業務稼働率


(出所:日本総合研究所)


■振り返りのポイント
 これまでの新型コロナウイルスへの対応は、的確かつ迅速にできたであろうか。各事業特性により目標はそれぞれだが、評価の要点となる一般的な達成目標は3つある。

1.事業所内で感染拡大を発生させることなく対策できたか
2.政府要請である出勤者の最低7割減を実現できたか
3.可能な限り事業を持続させ従業員や取引先を守れたか

 事業によっては業務が増大したり、反対に業務が枯渇したりするケースもある。その場合は各々の特性を考慮した目標に対して最善を尽くせたかということになる。また、目的が達成できたかということに加え、的確かつ迅速に混乱なく実施できていることが望ましい。

 もし、その過去の検証結果または将来事象に向けたシミュレーションの過程で不安があれば、具体的な対策をすべきということになる。

■業務遂行体制維持への備え
 感染拡大が起きた際に事業遂行に係る業務稼働率がどのように変化するのかを想定し、対応方針を検討し、備えるという大きな課題がある。

 感染者の発生や感染拡大防止策によって、業務遂行可能な人数の減少が想定されるケースでは、その程度別にどの機能をどの水準で維持するのか、その際に欠かせない体制・環境について検討し備えることが必要となる。
 日本総研が支援したある企業では、優先度の高い業務を峻別し、その優先機能を維持することを目標とした。その企業は、コールセンターおよびユーザーサポートなど顧客サービス機能が感染拡大を理由に停滞してしまう事態の発生を避けるため、それらの業務を最優先業務とした。業務縮小を余儀なくされる営業部隊や間接部門など優先度の低い業務を縮小し、要員を優先業務に充てる備えを進めた。

 また、感染拡大によって業務が増える事業体がある。食品等の消費財小売業や薬局、医療・福祉施設、役所などである。これらの事業体は、有事の際に平常時の人員では不足するため、臨時の要員を調達する準備をしているケースが多い。有事の際に限り、OB・OGの中から協力してもらえるサポーターを予め登録しておく、要員提供をしてもらえる組織と予め協定を結ぶなどの備えをしている。

 いずれのケースでも事前の備えなくしては的確かつ迅速な対応は難しい。

■BCP実行のための諸課題
 BCPの検討・策定・実行過程では、様々な対処すべき課題が発生する。急場しのぎであれば場当たり的な対応も仕方ないとの見方はあるが、繰り返し発生するなど長期の対応となることを前提とすれば抜本的な見直しの必要も出てくる。
 
 例えば、より広い職種で在宅勤務を実施するとなれば、制度面やシステムなどの環境整備など課題は尽きない。なお、働き方改革によって在宅勤務を進めてきたおかげで、今回の緊急事態宣言の際に緊急体制へのスムーズな移行ができた企業は少なくない。

 具体的な施策については、可能な限り緊急時だけのための投資でなく、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをきっかけとした世の中の変化と将来の事業の在り方を見据えた効率的な投資を目指したい。そのためにBCPの検討にあたっては、基本方針レベルから慎重な議論が必要である。

 検討の要素は まずは何を目指し、どう変わるのかという基本方針レイヤー、それを実現するための管理・制度レイヤー、それら制度を支える業務・システムレイヤー、それら仕組みに魂を込める意識・風土レイヤーである。これらを点検し整備することが欠かせない。

図表2 BCP対策検討の視点


(出所:日本総合研究所)


■BCP/BCMの目指すべき姿
 まさに今、検討し対策している取り組み自体がBCP/BCMとなる。これをさらに次の事態が発生した際の参考になるように残し、再現性を担保することが目下の目標である。BCP/BCMの現状がどの程度の水準であるかを評価し、どの程度を目指すのかを定め取り組むことが望ましい。BCP/BCMの水準を測る基準は、日本総研では「図表3 BCP/BCMの成熟度」を使用している。

図表3  BCP/BCMの成熟度


(出所:日本総合研究所)


 これら成熟度評価は想定する事態別に評価する必要がある。国内で感染症が発生することまでは想定しBCPを整備していたが、緊急事態宣言や組織内に感染者が多発することまでは想定していないというのは珍しくない。従って、「図表4 感染症拡大フェーズ別成熟度レベル」に記載したように、フェーズ別に成熟度を見ると分かりやすくなる。

 感染拡大フェーズ別の成熟度は、レベル5のハードルが高いと考えるのであれば、最低限「図表4 感染症拡大フェーズ別成熟度レベル」の「当面期待される成熟度」を目指したい。

 感染症は遠くない過去に国内外で幾度も発生しており、今後も定期的に起こり得る。そのような事態を経験し対処し適宜見直してきた事業体も多く、警戒レベル(フェーズ別)1、2は高い成熟度を目指すべきである。

 それ以降のフェーズは、今回の対応において問題が無かったということであれば、せめて同じ事態が発生した際に同水準以上の対応ができるように反復できる状態を維持することが必須となる。

図表4 感染症拡大フェーズ別成熟度レベル



(出所:日本総合研究所)


※BCP:Business Continuity Plan
※BCM:Business Continuity Management

以 上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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