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ビューポイント No.2020-004

【コロナショックをどう乗り切るか(3)】
増大する雇用調整圧力と求められる労働政策

2020年04月27日 山田久


世界各国で厳しい移動制限が導入されていることで、足元の世界経済は急激な収縮に見舞われ、雇用調整圧力が一気に高まっている。今回の新型ウイルスの感染力は極めて強く、夏頃までに厳しい移動制限が緩和されるとしても、少なくとも年内は感染拡大抑制策が残るだろう。経済活動水準はコロナ前を下回って、本格回復には程遠い状況が継続することが想定される。
すでに足元、外食・観光・娯楽関連分野での雇用需要が大幅に減退しているが、今後、世界経済の急激な収縮により輸出関連産業の売上が大幅に減少し、製造業分野での雇用需要の減退が顕在化してくることは避けられない。シミュレーションを行うと、全産業ベースで2021年半ばまでに約100万人の雇用が失われる。さらに事態の終息がみられなければ、リーマンショックを上回る規模の雇用消失となる恐れがある。

中長期的な観点から重要なのは、雇用構造や労働市場の在り方が大きく変わる点である。内外産業立地、流通・物流構造、産業集中度、製造過程等、様々なレベルで変化が起こり、産業別や職種別の雇用構造が大きく変わる。
現時点でその具体的な方向性を見通すことは難しいが、「生活安全保障」に対する人々の意識が高まるとすれば、「簡素・清潔・高質」を重視するライフスタイルが広がる。結果、バリューチェーンの下流に位置する現場ワーカーの規律や技能の高さの重要性が一層高まり、この分野における相対的な賃金上昇や継続雇用化の流れが強まる可能性が考えられる。

業務デジタル化・事業オンライン化に伴うテレワーク・遠隔勤務の普及により、働き方も大きく変わる。働く場所や労働時間が多様化し、フリーランス化・副業普及が進むことが予想される。
現場ワーカーの賃金上昇や継続雇用化の流れと併せて考えれば、正社員・非正社員の二重構造の在り方が本格的な見直しを迫られる。スポット雇用やフリーランスが低賃金・不安定就労の温床として広がる可能性にも目配せが必要である。
国全体として考えれば、雇用構造・労働市場の変化を見据えて、失業を回避しながらスキル転換・労働力移動をどれだけ円滑にできるかが、「コロナ危機後」経済の成長力を決めることになる。

いま求められる労働政策とは、経済活動の落ち込みが想定以上に長期化する可能性を踏まえた「緊急対応策」と、中長期的な構造変化を見据えた「構造改革支援策」の2本立てでの対応である。すでに政府は史上最大規模の緊急経済対策を策定したが、それは短期終息を前提とした形であり、追加的な財政支援が求められる公算が大きい。
事態の終息が見通せずに国民や企業の先行き不安が増幅されれば、経済のスパイラル的な悪化が生じかねない。十分な資金の手当てにより、事態が長期化しても万全の備えがあることを国民・企業に示すことが重要で、数十兆円規模で資金をプールする「緊急安定化基金」の創設を提案したい。

「緊急安定化基金」により行う施策の第1の柱は「資金繰り対策・金融システム安定化策」である。コロナ危機の間、「企業を倒産させない」ことが最大の雇用対策であり、政府系金融機関による直接融資の拡充、信用保証の大幅拡充による民間金融機関の支援力強化、日本銀行による信用緩和策強化、が具体策となる。
第2の柱は、「雇用維持支援・所得補償政策」であり、「緊急対応策」として、全ての働く人々に「今の生活の安心」を与える政策である。「雇用調整助成金」の特例措置の拡充・継続や運用面の改善、休業要請に従った事業者に「協力金」や「奨励金」が支払われ、従業員への休業手当支払いを可能とする仕組みづくり、フリーランスとして働く人々への所得補償の継続、が具体的メニューである。

第3の柱は、「構造改革支援策」としての「総合的な構造変化・スキル転換対応支援策」である。コロナ危機後に向けた「変化への適応」を支援する政策であるが、できるものがあれば今からでも着手するべきで、「テレワークの推進支援」がその典型である。雇用構造やワークスタイルの変化を見据え、企業・個人がその構造変化に適応していくことを支援することが肝要で、経済社会の変化の方向性についての的確な見通しを国全体で共有し、ジョブ・マッチング・システムや実践的職業能力育成システムの構築により、労働移動・スキル転換を支えることが求められる。

・コロナショック増大する雇用調整圧力と求められる労働政策-コロナショックをどう乗り切るか(3)(PDF:760KB)
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