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CSRを巡る動き:働き方改革と人材への投資

2020年05月01日 ESGリサーチセンター


 2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行され、時間外労働の上限規制や、年次有給休暇の取得義務、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差別禁止が定められました。2020年4月1日からは、中小企業に対しても時間外労働の上限規制が定められるため、より多くの企業が働き方改革を迫られることになります。日本は、OECD先進国に比べて労働生産性が低く、その原因の1つとして長時間労働が問題視されてきました。時間外労働の上限規制をきっかけに、企業や働く人の意識や行動変容を通じて、生産性の高い働き方への移行が進むことが期待されています。

 最近では、2020年に中国で発症した新型コロナウイルスによる感染症の広がりも、働き方改革の必要性を認知させるきっかけになっています。新型コロナウイルスの感染は、今や世界各国で広がり、日本における感染者数も増加傾向です。海外では、感染症の広がりを抑えるために、政府が食料の買い出し等の条件以外の外出を禁止するなど、厳しい外出制限を行っています。国内でも、感染症の予防対策として、満員電車等を避けるための時差出勤や、1か所に大人数で集まることを避けるために在宅勤務を推進する企業も出てきています。

 しかし、社会全体でみれば、働き方改革を実現するために従業員のために環境整備を行っている企業は少ないのが現状です。パーソル総合研究所が、全国2万人を対象に、新型コロナウイルス対策がテレワークにもたらした影響などを調査した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する実態調査」によれば、テレワークで就業している人は、正社員の13.2%にとどまっています。テレワークで就業していない理由としては、「テレワーク制度が整備されていない」(41.1%)が最も多く、「テレワークを行える業務ではない」(39.5%)、「テレワークのためのICT環境が整備されていない」(17.5%)が挙げられています。テレワークで働ける人が少ない現状からは、テレワークを通じて働きやすい職場環境づくりへの投資を行う余地は十分残されていると感じます。

 また、働き方改革では、効率化により捻出された時間を活用して、従業員の新たな成長へつなげていくことが期待されます。厚生労働省「能力開発基本調査」(平成30年版)によれば、労働者一人当たりに支出した企業の支出平均額は、OFF-JT費用で1.4万円(前回1.7万円)、自己啓発支援費用0.3万円(前回0.4万円)です。OFF-JTや自己啓発の費用の少なさは、企業側から見れば、すぐに業務で活用ができないなどの事情が容易に想像できますが、長期的な視野を持った人材教育への関心は総じて薄いという見方もできます。さらに、厚生労働省「労働経済の分析」(平成30年版)によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、米国、フランス、ドイツ、イタリア、英国と比較して著しく低いことも明らかになっています。諸外国と比べても、日本企業は人材投資の意欲を有していない現状が窺えます。

 働き方改革という言葉は社会的に認知が進み、多くの企業が様々な取り組みを進めていますが、その多くは時間外労働の削減といったコストの削減に着目したものが多い印象を受けます。たとえ、一時的にコストが生じても、働き方改革をきっかけに、人材への積極的な投資を行っていける企業が、人材と組織、双方の競争力を強化し、企業価値を押し上げ、変化の多い社会に生き残っていけるのではないでしょうか。

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