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地方小規模自治体におけるスマートシティのモデルー徳島県美波町に見るIoT への取り組み事例

2020年04月23日 野村敦子


「Society 5.0」の掛け声のもと、日本各地でスマートシティの取り組みが活発化しており、「第3 次スマートシティブーム」の様相を呈している。広く紹介されているものの多くは中規模以上の都市であるが、本稿では小規模自治体の事例として、徳島県美波町の取り組みに焦点を当てた。

徳島県美波町は、高齢化や人口流出で過疎化が進んでおり、主要産業の第1 次産業が衰退しているなど、日本の地域社会が抱える課題の縮図ともいえる。町はこうした課題を認識しながらも現実を前向きに捉え、「にぎやかな過疎宣言」を行うなど、特色ある地域づくりの政策に繋げようとしている。加えて、徳島県の政策として、高速ブロードバンド網の整備とサテライトオフィスの誘致が推進されており、美波町のまちづくり戦略を支える基盤として機能している。

美波町が抱える課題の中でも、住民の生命に関わる最重要なものとして、防災・減災対策がある。そこで、災害発生時にも通信が遮断されない「止まらない通信網」プロジェクトへの取り組みが始まった。サテライトオフィス進出企業の技術を活用してIoT 網を構築し、住民への正確な情報提供や要避難支援者の状況把握を可能とすることで、一人でも多くの命を救えるようにしようというものである。

この「止まらない通信網」の特徴は、既存の技術の活用により、低コストを実現していることが挙げられる。平時も活用することを目指し、高齢者や児童の見守りサービス、水位や水温などの環境センサーとの連携、農業や水産業への応用などが検討されている。小規模自治体による独自の取り組みは、全国的にも注目を集めており、CEATEC の地方版IoT 推進ラボの展示で、町単位で唯一選出された。

美波町の取り組みは、大企業や専門家任せにするのではなく、行政や住民など地域社会が主体となって、地域の限られた資源を有効に活用しており、見習うべき点が多い。そのポイントとしては、①地域の課題やニーズを明確化して、現実的な解決策を探求した取り組みであること、②サテライトオフィス進出企業をソーシャルイノベーションのパートナーとして位置付け、協業関係を構築していること、が挙げられる。
さらに、ミナミマリンラボやデュアルスクールなど、まちづくりを支える新たな動きが連鎖的に発生している点も、美波町の特徴といえる。

もっとも、「美波町モデル」を確立し、持続可能なものとしていくためには、スマートシティのプロジェクト立ち上げ時に中心的な役割を果たしてきた特定の個人への依存からの脱却、ならびに、自立・自走可能な仕組みづくりが必要となる。前者については、周囲を巻き込んでの役割分担や次世代の人材育成、後者については、一定の市場獲得が展望できるように他地域への横展開、そのための国や県、大学などとの緊密な連携が求められよう。

・地方小規模自治体におけるスマートシティのモデルー徳島県美波町に見るIoT への取り組み事例 (PDF:1073KB)
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