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JRIレビュー Vol.4,No.76

地方税収の将来像と地方税源の在り方-一極集中時代の国税・地方税改革の方向性の提言

2020年04月23日 蜂屋勝弘


地方税については、税収の大都市圏等への偏在がかねてより問題視されており、これまで、偏在度合いが相対的に大きい地方法人課税が縮小されてきた。今後を展望すると、大都市圏への一段の人口集中に伴って、地方税収の集中も続くとみられ、今後も引き続き、地方法人課税をいかに縮小するかが課題になる可能性が高い。またその際に、何を代替財源にするかも問題となる。近年、わが国が取り組んできた地方法人課税の縮小においては、国が地方自治体に交付する地方交付税や譲与税が代替財源とされてきたが、こうした地域住民が直接負担しない財源を拡充することは、中央集権体制の下とはいえ、地方の自立を目指す地方分権の流れにそぐわないうえ、地方自治体の財政規律の弛緩につながるおそれがある。本稿では、地方の行政サービスを住民の選択による負担で提供できるような地方税の在り方を、国税の在り方を含めて考察し、具体的な改革案を提言する。

そもそも、地方法人課税の在り方については、政府の税制調査会等において、かねてより再検討が求められていた。論点として、①地方自治体の提供する行政サービスの対価として法人にも一定の負担を求めるのは当然、②税収増に向けた行政による企業誘致や産業振興につながり得る、といったポジティブな見方がある一方で、ネガティブな見方として、大都市圏への税収の偏在に加えて、①景気変動の影響を受けやすい、②法人実効税率を押し上げる、③地域住民の直接の負担にならないため歳出規模が膨らみがちになる、といった問題が指摘されてきた。さらに、近年の経済のデジタル化のなか、現行の制度では、海外のデジタル企業への課税に対応しづらいことも問題となろう。

今般、2019年10月に実施された消費税率の10%への引き上げにあわせて、①法人住民税(地方税)の縮小と地方法人税(国税)の拡大および同税収の地方交付税財源への繰入、②法人事業税(地方税)の縮小と特別法人事業税(国税)の新設および同税収の譲与税(特別法人事業譲与税)化、が行われたところ。上記の論点を比較考量すると、地方法人課税の縮小自体は妥当といえる。しかしながら、その代替財源を国から配分される地方交付税や譲与税とした点は、受益者が負担するという地方財源の本来の在り方に鑑みると問題。地域住民の直接の負担にならない財源であるため、自治体の歳出が膨らみがちになるとの見方がある。歳出への影響をみるために、地方行政サービスの費用関数を推計すると、財源に占める地方交付税の割合が大きい自治体ほど、歳出額が最も効率的なレベルを上回る傾向がみられ、地方全体で1.5兆円程度の歳出が膨らんでいると試算される。

主要国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ)の税目構成をみると、①連邦制か否かを問わず固定資産税は地方税の柱、②連邦制国家では個人所得課税と一般消費税が地方税の主要税目、③連邦制か否かを問わず法人所得課税は基本的に国税、であることが指摘できる。これらと比較すると、わが国の税制は、連邦制でない国にしては、国税よりも地方税に税源が厚く配分され、地方税収に占める地方法人課税の割合は高めといえる。

以上の検討を踏まえ、地方のトータルの税収額を現状から変えないことを前提に、地方税改革の具体的な方向性として、①法人住民税の法人税割と法人事業税の所得割の廃止と、②個人住民税所得割や固定資産税の増税、をセットで行うことを提言する。都道府県税において、法人住民税法人税割と法人事業税の所得割を個人住民税所得割に移し、市町村税において、法人住民税法人税割を個人民税所得割と(事業用固定資産の)固定資産税に半分ずつ移す場合、現行の10%(都道府県4%、市町村6%)の個人住民税の税率を14.0%(都道府県7.5%、市町村6.5%)に引き上げることになる。

以上の見直しによって生じる法人負担の減少と、個人負担の増加を相殺するために、国のトータルの税収を変えないことを前提に、①所得税(国税)の減税と、②法人税(国税)の増税を行うことも合わせて提言する。具体的には、所得税率を4%ポイント引き下げる一方で、法人税率は現行の法人税率23.2%を26.8%に引き上げることになる。

以上のような地方税の見直しを実施した場合、東京の税収が減少し、逆に、東京以外の道府県の税収が増加するため、地方税収の偏在は一定程度是正される。また、地方交付税で賄われる地方財政の財源不足額は、地方財政全体で800億円程度縮小すると試算される。

行政サービスの地域差は、人口等の減少を受けた税収の減少に伴って、主に東京のサービスレベルが低下することで、縮小に向かうとみられる。本稿で示した地方税改革を行うことで、事実上、東京からその他の道府県に一部の財源が移ることから、行政サービスの地域差の縮小に若干の効果が期待される。ちなみに、所得税減税と個人住民税増税によって、低所得層を中心に若干の負担率の上昇が見込まれることへの対応として、個人住民税の「調整控除」の見直しが現実に即した選択肢と考えられよう。

現行の地方法人課税に係る問題点に鑑みれば、地方法人課税を縮小することは妥当であるものの、代替財源を地方交付税や譲与税とすることは問題。代替財源として、地域住民の合意によって税率を制限なく選択することが出来る個人住民税や固定資産税を充実させることが、地方分権時代の住民自治の強化にもつながろう。
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