デジタル化があらゆる業態において浸透する中、リテールの実店舗運営においても、決済や在庫管理、発注業務などの分野でのデジタル活用は既に本格的なものとなっている。
一方で、実店舗での顧客の購買行動の収集は、POSデータや会員カード情報くらいに留まってきた。そのため、品ぞろえやレイアウト、接客対応など、顧客の購買行動を理解していなければ対応できない分野においてはデジタル化がそれほど進んでおらず、勘や経験に頼る部分が残されていた。
しかし最近では、実店舗における画像取得と解析技術によって広範かつ詳細なデータを活用することが可能となってきており、さらに精度の高い運営を目指す動きが活発化している。
「図表1 実店舗における収集情報と活用例」には、本格的にテクノロジーの活用が普及する前の実証段階の技術も記載されている。例えば、実店舗における近年の動向には次のようなものがある。
■ファミリーマート
【目的】 デジタル技術を活用した生産性向上
【取り組み概要】
横浜市の店舗に約80個のカメラやセンサーを設置し、顧客の動きや顧客属性などのデータを収集し、店づくりへの活用方法を模索している。常連客を判別することも可能としている。
■米ウォルマート
【目的】 実店舗が生む情報そのものを収益源に育成
【取り組み概要】
ニューヨーク州の郊外店舗にて、数千個のカメラとセンサーを設置し、顧客の動きや売れ行きを追跡し記録する。デジタル広告の取引先メーカーへの販売を視野に入れる。
■ダイエー
【目的】 生産性向上を目指した効率の良い売り場づくり
【取り組み概要】
大手メーカーと連携して実証実験対象店舗の売り場にカメラを設置し、利用客の行動を記録・分析して店づくりに役立てる取り組みを進めている。2019年の実験では、特定カテゴリーにおける来店客の行動分析結果に基づいてレイアウト変更を行い、販売数量を8%増やすことに成功している。
店舗運営改善事例
日本総研が取り組んだ店舗運営の改善事例として、基本的な例を以下に紹介する。この取り組みの目的は、適切な店舗運営を実現するための実態調査と改善策の立案であった。
まず取り組んだのが、POSデータや会員カードからでは把握しきれなかった来店客の実態(総数・年齢・性別)と混雑状況・レジ待ち実態の測定であった。店舗にカメラを設置し取得した画像の解析によって来店客の実態を正確に把握し、POSデータと併せて購買実態との関連を明らかにした。その観測結果は「図表2 来店客数と行列および購買率の観測結果」に示すとおりである。
これら解析と分析から、店舗が混雑すると来店客数が伸び悩み、さらに待ち行列が多くなると購買率が低下する事実を明らかにした。店内のレイアウトと要員配置の最適解を求めるために、来店客低下と購買率低下によって失われる機会損失を算定し適切な意思決定ができる判断材料をそろえた。要員配置を最適化するために「図表3 要員最適化の視点」の考え方に基づいて要員配置を見直し改善効果を出している。
本稿で紹介したのはデジタル化事例のごく一部であるが、従来は見えなかった事実が新たに見えたとき、これまで試行錯誤し曖昧であった疑問の答えが見つかることは多い。
本稿で記載した分野のデジタル化は、現時点では実証実験段階の取り組みも多い。それら検証結果の情報が広く公開されることにより有効性が認知され、デジタル化が加速し、メリットが広く享受されることが期待される。
以 上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。