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DX時代におけるテクノロジー人材の定義と育成

2019年10月01日 國澤勇人


せっかく採用したテクノロジー人材が生かされない
 データやデジタル技術の活用が事業やサービス競争力を大きく左右するようになり、どの企業でもそのための人材の採用や育成、そして組織づくりに注力している。AI等のスキルを有する学生への初任給を大幅に引き上げた企業や、大学と提携してデータサイエンスの知見を有する社員を育成する企業も今や少なくない。6月に内閣府が発表した「AI戦略」では、2025年に向けて「データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材」を年間25万人育成することを目標に掲げている。
 しかし、テクノロジー人材の採用や育成に注力していても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進がなかなか進まないという声をよく耳にする。
 例えば、データサイエンスを専門とする若手を雇用してデータを取り扱う専門組織を立ち上げたある企業では、社内各部門のデータを集約し、営業実績の詳細な分析を行うことにした。しかし、その分析結果は、経営層にも営業部門にも理解されず、作成されたまま放置されているという。
 この例は、テクノロジーに強い人材を確保したにもかかわらず、実際の業務においてはそうした人材が浮いた存在になりかねないことを示している。実際、筆者も経営層側からは「テクノロジー人材に説明を求めても要領を得ない」、一方のテクノロジー人材側からは「デジタル技術やデータサイエンスについてどれほど説明しても、まったく理解されず活用してもらえない」という声を何度も聞いている。

事業部門自身がDXを主導
 データやデジタル技術は、事業部門が解決すべき課題や提供したいサービスを実現させるためのツールである。したがって、これまで作られてきた各種情報システムにおいても、少なくとも要件定義については情報システム部門任せにせず、事業部門が自ら行ってきた。しかし、より機動的な対応が求められるDXの時代においては、事業部門がビジネス要件ばかりでなく、そこで用いられるテクノロジーについても主体的に決める場面が増えてくる。そのため、事業部門のなかに、データやデジタル技術に一定の知見を有する「ビジネスとテクノロジーを接続させる人材」を配置することが必要となってくる。
 実際、事業部門の主導で、テクノロジー専門組織にほとんど依存することなく営業支援システムの導入まで行うことができた企業も少なくない。そうしたケースはいずれも、営業担当者の意見を取りまとめつつ要件を定め、優先順位および導入を見送るべき機能を整理する人材が事業部門内にいたことで実現したものといえる。「デジタルでできることできることを見定めることができる」「業務要件を言語化し、外部業者に適確に伝えられる」人材がこれまで以上に事業部門にも求められている。

採用と育成の適切なバランスによる組織設計
 しかし、事業部門にテクノロジーに強い人材を配置するべきということではない。そうした人材は、全社のテクノロジー専門組織に配置させ、テクノロジーの情報を収集や開発、そして自社の事業への適用可能性を探ることに集中させることが適切である。
 例えば昨今では、顧客との接点となるコールセンターやチャットボットに自然言語処理の技術を用いられるが、自然言語処理には多くの要素技術があり、モデルも様々である。どのモデルが適しているのか、それを専門的な見地から検証し、見定めることができるのは技術的な知見を有するテクノロジー専門組織のみである。
 こうしたテクノロジーに強い人材を内部で育成することは難しく、大学で当該分野を専攻した人材や各種研究所等で実績を積んだ人材を新たに採用することが必要となる。一方、前述の事業部門で必要なのは、「テクノロジーの概要を理解し、使いこなせるレベル」の人材であり、これは自社の事業を理解している内部の人材に対して必要なデジタルスキルを育成することが適切である。
 企業がDXを迅速に取り込んでいくには、事業部門とテクノロジー専門組織で必要となるテクノロジーの質を見極め、育成を進めるべきか、採用で対応しなければならないかを判断しながら人材配置を進めていくことが従前以上に重要となる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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