米中対立の根源的な要因となっている中国の産業支援策は、①補助金、②税制上の優遇、③資金供給、の三つに大別できる。補助金は、産業振興や企業救済の目的で企業に給付され、税制上の優遇は主として、ハイテク産業の振興を後押しするために実施されている。資金供給は、産業振興を目的に、予算以外の経路で企業に資金を融通する手段で、政府系ファンドと国家開発銀行が主な供給源である。
企業の開示情報等に基づき産業支援策の実態をみると、上場企業向けの補助金は2010年以降増加している。補助金給付の重点が企業救済からハイテク産業振興へとシフトしつつあることも指摘できる。政府系ファンドは、ハイテク製造業の振興を目的とする「中国製造2025」が公表された2015年に急増し、人工知能やロボット、素材といった産業を主要な投資対象としている。国家開発銀行も、ハイテク産業向けの新規融資を増やしている。
習近平政権がハイテク産業の振興に注力する背景には、成長持続のための新たなエンジンが求められていることがある。投資効率の悪化や生産年齢人口の減少により、技術進歩が新たな成長エンジンになるため、政府はハイテク分野向けの産業振興策を強化しようとしている。国力強化に不可欠であることも、支援策でハイテク産業の育成を後押しする理由に挙げられる。
ハイテク産業への支援策をみると、半導体産業には、政府系ファンドや国家開発銀行から多額の資金が供給され、主要企業の急成長を支えるとともに、生産の高度化に寄与した。新エネルギー自動車や産業用ロボットでは、補助金の給付が企業の成長に寄与した。情報通信企業には、大きなリスクを伴う海外プロジェクトを対象に、国家開発銀行が金融支援を行った。こうした産業支援は一定の成果をあげたといえる。
中国の産業支援策には、成果だけでなく副作用もある。副作用としては、アメリカの警戒心を高めたことや過剰生産が挙げられる。中国がアメリカの要求を受け入れて補助金の廃止を行うことは考えにくいものの、過剰生産の抑制や資金投入効果の改善の観点から、産業支援策の部分的な見直しが行われる可能性はある。
トランプ政権は、中国が不正な手段で競争力を高め、それが安全保障の問題にもかかわる点を問題視し、産業支援策の是正を迫っている。こうしたアメリカの対中強硬論は、超党派のコンセンサスとなっており、2020年の大統領選挙の結果に左右されるとは考えにくい。一方、習政権は、産業支援策を世界一の強国実現に不可欠と位置付けているうえ、見直しに伴う経済・政治への影響を勘案し、支援策を継続するとみられる。この問題をめぐる米中対立は変わらず、急転直下の妥結は見込みにくい。
関連リンク
- 《米中対立における中国とインドの立ち位置》JRIレビュー2020 Vol.3,No.75
・習近平政権はなぜアメリカとの対立を厭わないのか(PDF:3344KB)

・中国の産業支援策の実態-ハイテク振興重視で世界一の強国を追求(PDF:2270KB)

・世界経済の潮流を左右するインドの対米・対中経済関係(PDF:2329KB)
