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未来に対するアイデアは「スキット(寸劇)」でプレゼンしてみよう ~プレゼンターと聞き手の“世界観”の共通化~

2020年02月10日 小林幹基


 皆さんの会社でプレゼンはどのように行われているだろうか。多くの企業では、プレゼンターがパワーポイントで作成した資料をプロジェクタで投影しながらプレゼンしているのではないだろうか。これまで筆者がご支援した企業もほとんどの場合が上記のスタイルであった(一部、手書きのポスターによるプレゼンもあった)。過去の振り返りや現状分析を踏まえた事業計画や中期計画を議論する、または、研究成果を報告する際には、上記のスタイルでも大きな問題はないだろう。しかしながら、もう少し長い時間軸での(5年以上先の)新規事業・新サービス・新製品の企画のプレゼンにおいても同様のスタイルが良いかどうかは疑問が残る。

中長期の時間軸で議論するためには、プレゼンターと聞き手が共通の“世界観”を描く必要あり
 中長期の時間軸での新規事業・新サービス・新製品開発の担当者が、必死に検討したアイデアを上長にプレゼンした際に「(誰が、いつ、どこで、何のために、どのように、当該サービス・製品を利用するのか)イメージが湧かない」とばっさりと切り捨てられた、という話を耳にすることがある。これは、プレゼンターと聞き手の間で、前提認識にギャップがあるからだ。一般的にプレゼンターが中長期の時間軸で物事を語る際、自分なりに検討したいくつかの仮説の基づく“世界観”の中で議論を展開している。そのため、まずは“世界観”を丁寧に説明して、聞き手と共通の認識としたうえで議論を展開せねばならない。しかしながら、テキストと多少のイラストや図表で構成された数枚のパワーポイントの資料を用いて、共通の“世界観”を描くことは非常に難しい。その結果、プレゼンが進むにつれて、プレゼンターと聞き手の間での“世界観”のギャップが拡大していき、最終的に、聞き手は「イメージが湧かない」、または、トンチンカンな方向に議論が向かっていくのである。
 なお、先述の事業計画や中期計画、研究成果報告といった短中期(5年未満)の議論であれば、現状をベースとしたある程度の共通認識の下で議論ができるため、前提となる“世界観”を特別に意識する必要はない。

強く印象に残ったCES 2020でのBoschのプレゼン
 今年のCES(※1)2020で最も印象的だったのが独自動車部品大手Boschのブースである。同社のコンセプトや製品・サービスもさることながら、プレゼンが大変上手いと感じた。というのも、同社が目指す未来の世界のワンシーンを切り取り、その中で同社の製品を「誰が、いつ、どこで、何のために、どのように」利用するのかをスキット(寸劇)で表現していたのだ。これによって、聞き手は皆、同じシーン(“世界観”の一部)を想像することができ、具体的に世界観のイメージが湧くのである。言うまでもなく、同社のブースでは、プレゼンターと聞き手が共通の“世界観”の下で活発な議論が展開されていた。
 ちなみに、日本企業のブースは、製品・サービスそのものは素晴らしい一方で、各製品・サービス間のつながりが見えず、各企業が目指す未来の世界を聞き手がイメージすることは容易でなかった。総じて、プレゼンの方法で見劣りしていると強く感じた。

写真:Boschはスキットで当社の次世代モビリティをプレゼンする(デートシーン)


(出所:日本総研撮影)

プレゼンターと聞き手が共通の“世界観”を描くための「スキット」
 筆者が所属している未来デザイン・ラボでは、主に民間企業に対して、未来洞察という手法を用いて、10~15年後の事業機会を見いだすためのご支援をしている(アウトプットは、新規事業だけでなく、長期ビジョンとして検討することも多い)。また、イノベーション教育の一環として、大学で未来洞察の講義をすることも多い。
 筆者は大学で講義する際、学生に対して、アウトプット(10~15年後の事業機会)を可能な限りスキットで表現するように指示している。学生たちは、限られた時間の中で果敢にスキットに挑戦してくれる。実際、アウトプットの質に依らず、スキットを交えてプレゼンしたチームに対しては、パワーポイントの資料でプレゼンしたチームに対してよりも、聞き手からの質問も多く、熱い議論が展開される。これは、Boschのプレゼン同様、プレゼンターと聞き手が共通の“世界観”の中で未来の事象を議論できているからである。
 企業に対してもスキットでのプレゼンを提案することもあるが、残念ながら受け入れられたことはない。プレゼンはパワーポイントできちんと構成された資料に基づいて行うものだという固定概念があるのだろう。もちろん、自らがスキットを演じる恥ずかしさもあるだろうが。ともあれ、中長期の時間軸のアイデアを議論する際は、前提として、プレゼンターと聞き手が共通の“世界観”を描くことが重要となる。そのための手法として「動画」や「漫画」で表現することも有用だが、それなりの時間とコストを要する。まずは手軽でコストもかからない「スキット」を活用したプレゼンを検討してみてはいかがだろうか。

(※1) 米ラスベガスで毎年1月に開催される電子機器の見本市

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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