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北海道が示唆するインフラの未来

2020年01月24日 八幡晃久


 夏の北海道を、オープンカーで走る。
 数年前から抱いていたささやかな野望を、実現する機会を得た。

 2019年、子どもの夏休みに合わせた、3泊4日の北海道旅行。新千歳空港に到着後、大雪山まで北上。その後、旭川、美瑛・富良野、札幌を経て、新千歳空港に戻った。細かい計算はしていないが、概ね600km程度を走破した格好だ。幸い、天候にも恵まれ、オープンカーで走る気持ち良さも堪能することができた。ただ、旅行中、ずっと、あることが気になっていた。道路がやたらと「凸凹(デコボコ)」しているのである。

 一面に広がる小麦畑を横目にしながら、ゆっくりと、気持ちよく車を走らせていたのに、道路にできた陥没部分やひび割れ・段差により大きく車体が上下し肝を冷やす、という場面が何度もあった。少し調べてみたところ、北国では、雪解け水が道路のひび割れにしみこみ、夜凍結して膨張することで道路が傷みやすいという特徴があるようだが、今から10年以上前、友人夫婦と同じような季節に、同じようなルートをたどった際にはほとんど気にならなかった。そんな「道路の凸凹」に違和感を覚える一方、どこかで“このような話”をしたことがあったような、既視感も感じていた。

 未来デザイン・ラボでは、未来洞察(フォーサイト)(※1)という考え方に基づき、10年、20年といった長い時間軸で将来変化を考えるワークショップのデザイン・情報提供・ファシリテーションを行っている。未来洞察の特徴は、非線形の変化を洞察すること、つまり、「変化の兆し(=weak signal)を大量にインプットし、想定外の変化の可能性を捉えることで、“あり得る未来”を洞察する」点にある。同時に、それだけでは連続的な変化を考慮することができないため、線形変化の検討、言い換えると、「社会、技術、業界に関する一般的な将来予測(=未来事実)等をインプットし、メインストリームの変化を抑えることで、“ありそうな未来”を考える」ことも並行して行う。この線形変化の検討において、しばしば「日本のインフラは、将来、どうなるのか?」という問いが採り上げられる。

 インフラの将来を考える大前提は、インフラ老朽化と人口減である。言わずもがなであるが、実際にワークショップで用いる未来事実をひくならば、以下のような情報が該当する。

・2033年:建設から50年以上経過したものの割合が、道路橋で67%、トンネルで50%、下水道管で24%を占める)(※2)
・2045年:日本の総人口は、1億642万1000人に減少)(※3)

 結果、当然の帰結として、既設インフラの稼働率は低下する一方、メンテナンス・補修コストが増大するが、それを賄う税金、ひいては税金の拠出元である生産年齢人口は減少しているため、「補修されないまま放置されるインフラが増えるのではないか」、また、「行政サービスを提供するエリアと、提供しないエリアを明確に区分するようなやり方で、無理やりコンパクトシティ化をはかるような自治体も出てくるのではないか」、というのが成り行きベースで語られる典型的な将来像(※4)である。言うなれば、「限界集落」ならぬ、「限界インフラ」だ。
 このような議論をする時、参加メンバーの頭の中には、たいていは中山間地域が思い描かれている。筆者の場合、生まれ育った和歌山、特に、本州最南端である串本市につながる山道をイメージする。20年後には、山崩れが起きてもなかなか土砂は取り除かれず、また、多少の陥没は放置されたままで、次第に荒れ果てていくのかもしれない。そんな頭の中の風景が、北海道で感じた既視感につながったのであろう。

「北海道は、限界インフラの先進地域なのかもしれない」

 北海道旅行から戻り、大阪市内や和歌山を車で運転する中で、改めて北海道の凸凹した道路の違和感を思い起こした筆者は、その違和感を定量的に検証してみることにした。
 グラフ1は、2015年と2045年時点での一人当たりの「道路面積」を、都道府県別に比較したものである。着想の元となった北海道(オレンジで表記)は、2015年時点で70.1㎡/人となっており、全都道府県の中で最も大きい。つまり、「北海道が、限界インフラの先進地域である」という考えは、道路に関しては正しかったと言える。では、将来、北海道に続くのはどこなのだろうか。2045年の値が、2015年時点の北海道(=70.1㎡/人)を超えた都道府県(赤で表記)は、北海道を除くと、青森県、秋田県、和歌山県、大分県である。もちろん、各都道府県の財政状況や、市町村レベルでの道路保有状況、また、自然災害の状況にもよるであろうが、これらの都道府県は、「道路の利用状況は低く、メンテナンス・補修コストの負担は大きい」トップ5であることは間違いなく、ともすれば補修されないまま放置される道路が生じやすい地域と言える。

グラフ1:一人当たりの「道路面積」の比較(2015年 vs 2045年)(※5)(単位:㎡/人)


(出所:国土交通省及び国立社会保障・人口問題研究所データより日本総研作成)


 こうなると、他のインフラについても気になってくる。道路、水道、電力といったネットワーク型インフラのうち、都道府県別データが取得可能な上水道について、“一人当たりの「水道管の長さ」”を指標として、同様の試算を行った。結果をグラフ2に示す。

グラフ2:一人当たりの「水道管の長さ」の推移 (単位:m/人)(※6)


(出所:国土交通省及び国立社会保障・人口問題研究所データより日本総研作成)


 水道については、北海道が基準とはならない。2015年時点で最も高い値を示した都道府県は、岩手県(※7)(8.9m/人)であった。意外にも、北海道は6.4m/人と、全国平均の5.0m/人よりやや大きい程度に留まった。2015年時点で、岩手県の水道事業に異変が存在したわけでは無いため、単なる相対比較となるが、2045年時点で、2015年時点の岩手県の値を超える都道府県は、全部で20存在することが分かった。水道事業は、市町村単位で運営されており、既に地域間で最大9倍程度の料金の差が存在している。まさに岩手県においても、水道事業の広域連携を後押しし、経営基盤の強化を図ることを柱とした「新いわて水道ビジョン」が2019年に策定されている。同様の動きは、他府県でも進むと考えられるが、都道府県単位でみた場合の負担の重さは、グラフ2で示した通り、依然として存在する。

 日本は、課題先進国であると言われて久しいが、同じ日本の中でも、都道府県により、深刻度合いが異なる。道路と水道で多少異なるものの、やはり、地方部の都道府県は、より重く、難しい課題を抱えていると言える。しかし、逆説的には、それらの地域は、新たなモデルや技術がいち早く導入される、先進的な地域にもなり得ると言える。課題先進国の、課題先進地域として、課題解決のショールーム足り得るのだ。おりしも、近年、中国に対する見かたとして、十分な経済成長、生活水準の全体的な底上げを果たす前に、人口ボーナス期から人口オーナス期へと移行してしまう、「未富先老」を迎えることを問題視する記事を目にすることが増えた。将来的な輸出も見据え、「限界インフラの先進地域」が「人口減少時代のインフラモデル地域」となることを期待したい。

(※1)未来洞察(フォーサイト)の概要およびそのための具体的な方法論であるスキャニングについては、コラム「未来の芽を掴み取る“スキャニング”」ご参照頂きたい。
(※2)出所:国土交通省
(※3)出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」
(※4)実際のワークショップでは、バッドエンドともいえる「典型的な将来像」を変えるためのアプローチとして、(ドローン活用、AIによる画像処理、エネルギーハーベスティングや省電力通信技術、また、自己修復素材等の)技術開発動向を踏まえたモニタリング・補修の無人化・低コスト化や、ネットワーク型インフラから分散型インフラへのシフト、(シュタットベルケのような)担い手の多様化・地域化・複数サービスバンドル化が進むのではないか、また、それらの変化が進むのは、大規模災害がきっかけとなるのではないか、といった将来変化についてももちろん議論するが、本論とは関係ないため、詳述は避ける。
(※5)出所:道路統計年報2017および『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計) に基づき日本総研作成。なお、道路面積とは、舗装されている道路敷の面積を指す
(※6)出所:「水道統計調査」および「上水道事業・水道用水供給事業調査」、『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計) に基づき日本総研作成。なお、水道管の長さとは、上水道にかかる導水管,送水管および配水管延長の計を示す
(※7)岩手県における水道供給といえば、雫石町にて民間業者が運営する水道事業を巡り、水道供給の停止を巡るトラブルがあり、2019年3月に裁判外紛争解決手続き(ADR)が取られたことを思い出された方もいるかもしれないが、雫石町の水道事業は、上下水道ではなく、ポンプで井戸水を組み上げる専用水道であるため、「一人当たりの水道管の長さにより、維持・補修が困難」であった事例ではない。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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