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【ヘルスケア】
将来の介護を「ゼロ」にするためにテクノロジーを使う

2020年02月10日 齊木大


 創発戦略センターは、昨年9月にCONNECTED SENIORSコンソーシアムを設立し、日々、シニアがコミュニケーションを取りながら自己認識する機会をつくり、同時にデジタルツインを生成して将来に備える「subMEサービス」の開発に取り組んでいる。
 また、内閣府第2期SIP(戦略的イノベーションプログラム)の一環として、要介護高齢者の健康状態や生活状況を、感情も捉えながら対話するAIシステムの開発にも参画している。ケアマネジャーによる月1回くらいの頻度での面談をシステム化することで、業務効率化とともに、モニタリングの頻度を上げてケアの質を高めようとするものだ。
 私たちが参加するプロジェクトに限らず、国内外のさまざまな企業や研究機関が、IoTやAIを活用した高齢者のケアに関わるテクノロジーの開発を進めている現状がある。公的な制度でもテクノロジーをうまく位置づけて活用するのは当然だが、「いまのケアの仕方をどう置き換えて効率化するか」の視点だけでは意味がないとも感じる。テクノロジーによってこれまでには実現しにくかったことが実現できるのだから、その可能性を活かすコンセプトが必要だ。私は、これからの介護におけるテクノロジー活用は、自分以外の人から受ける将来の介護を「ゼロ」にすることこそ大事だと考える。

 人口減少が進む一方で2025年には団塊世代が75歳以上となり、医療・介護の担い手の不足は今後さらに加速することが確実視されている。財源だけでなく人的資源も不足し、このままでは公的サービスの持続的な提供が困難になる。在宅へのシフトや自立支援を重視する方向へと制度の改善が進んでいるが、独居者や後期高齢者の割合が増えることを踏まえるとこうした施策だけでは不足だ。後期高齢者の増加は、状態を改善しうる高齢者の割合が小さくなることを意味するし、独居者に必要なケアを、現在のように在宅で提供するのはサービス提供の点で効率が低いからである。だからこそ、団塊世代が介護を必要とする年代に入る前に、重点的に講じられるべきことは、将来起こりうる介護の予防なのである。

 介護保険制度の設立以来、多くの実践を通じて「将来起こり得ることのリスクを小さくするために今何をすればよいか」のノウハウが培われてきた。残念ながら、その知見は現場の優秀な専門職の頭の中にあってほとんど体系化されていないが、一つ一つの知恵をみると、生活の場面で出来ることが、まだまだ多くあると実感させられる。
 そして、そうしたケアの大半は、必ずしも第三者(介護サービスの担い手や家族など)でなくとも、適切な環境と知識が伴えば高齢者自身が自分でも出来る可能性がある。例えば、薬を飲み忘れないように声掛けしたり準備したりするケア、無意識に水分や栄養が減ってしまっているのを知らせるといったケアは、本人が自ら気づくことが出来るような環境を整えれば、必ずしも第三者が行わなくても良い。自分で出来るような環境を整えることにこそ、テクノロジーの活用余地がある。

 いまのやり方をただ置き換えるのではなく、将来の第三者からの介護を「ゼロ」にするために、セルフケアを増やす方向でテクノロジーを使うことこそ、ケア領域におけるDXが目指すべき方向性だ。これを実現するには、将来の介護を減らすための知見、一人ひとりにあった状況を判断するためのデータの収集・分析ノウハウ、高齢者が自ら無理なく続けて使えるサービスや事業のデザイン、そして何より全ての基本としての高齢者に対する深い理解が必要になる。
 私たちがいま取り組んでいる活動はこうした視点に立ったものだが、これからも、ケア領域におけるDXの推進に貢献できるよう活動していきたいと思う。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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