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日本総研ニュースレター 2019年9月号

「死ぬまで意思疎通」可能なインフラを~“デジタルツイン”に託す将来の意思決定~

2019年09月01日 沢村香苗


誰もが「単身高齢者」になる可能性がある
 未婚化、離婚の増加、親子同居率の低下などにより、世帯規模が縮小している。単独世帯は今後も増加し続け、2040 年時点では一般世帯の4 割を占めると推計されている。なかでも65 歳以上の単独世帯数の伸びは突出している(国立社会保障・人口問題研究所[2018])。人口減少という量的な変化もさることながら、生活の単位が家族という集団から個人へと質的に変化していることに注目して、これからの私たちの生活を考える必要がある。

身元保証人、空き家、無縁仏の背景にあるもの
 近年、入院・入所時の「身元保証人」が用意できない高齢者の増加を背景に、有償で身元保証人を引き受ける民間サービスが生まれている。事業者側の話を聞くと、身元保証人には金銭の損害補償などのほか、治療やケアに関する意思決定の際に本人と施設の間に入って調整するなどの対応を医療施設や介護施設から期待されるという。
 横須賀市は独自のエンディングサポート事業を行っている。この事業では、個人のリビングウィルや葬儀等の意向について市が把握し、病院等からの問い合わせに本人の代わりに対応することで、本人が望む形で人生を終えられる支援を行う。事業開始のきっかけは、葬儀や遺骨の引き取り、希望していた献体を実行する人がいないために「無縁仏」となってしまう市民が増加したことであったという。
 これらの例から、何らかの理由で本人との意思疎通が困難になった際の、本人にふさわしい意思決定を行う方法や情報伝達のあり方が未整備という課題が見えてくる。

意思決定自体より、決定までに至る情報の蓄積が有用
 本人不在の際の意思決定の手段としては、エンディングノートや遺言、信託などが思い浮かぶ。ただし、それらは意思決定の結果を伝達するだけで、書かれていないことについて本人の判断を予測し伝達することはできない。
 人の意思決定は、根底にある心理的な情報(価値観、選好、過去・現在・未来の目標など)に左右される。家族が本人に代わり意思表示をする場合、過去の選択や普段の行動からそうした心理的な情報を類推し、「その人ならどうするか」を考えることになる。こうした本人の心理的な情報を広く他者に利用可能な形で残すことで、本人との意思疎通が困難な際の課題を解決できる可能性がある。実際、終末期医療で注目されるACP(Advance Care Planning)では、個別の状況で何をするかを事前に決めるのではなく、本人の価値観や将来的な目標を明らかにし、他者と共有するプロセスを重視している。

心理情報の蓄積を可能にする仕掛けの構築を
 第5 期科学技術基本計画(2016~2020 年度)では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムで経済発展と社会的課題の解決を両立させる、人間中心の社会「Society5.0」が提案されている。
 本稿で挙げた課題も、心理的情報など「自分」を構成するフィジカル空間の情報をサイバー空間に複製・保存しておけば、本人による意思決定が難しくなった時も、他者がその情報を参照し解決できるのではないか。筆者は、心理的情報を軸とした自分の情報の集合体を、自分の電子的複製(デジタルツイン)という意味で「subME」と呼び、その構築手法を提案している。
 subME は対話アプリケーションを通じてユーザーに日々問いかけ、ユーザーはそれに答える。ユーザーはsubME との会話の中で、自分の価値観ややりたいことについて明確に意識するようになり、行動への動機を高めていく。同時に、subME は会話からの情報をサイバー空間に蓄積する。ユーザーの動機が高まり行動が活発化することで、subME に蓄積される情報も増えていく。
 subME に蓄積された情報を活用すれば、ユーザー自身が意思決定できない状態になっても、他者に自らの価値観を伝えることが可能となり、自分にふさわしい選択を他者の力を借りて最後まで行うことができる。支える側の社会にとってもsubME は、意思決定を支援・代行するときの大きな拠り所となり得る。支えられる側だけでなく、支える側も弱くなっていくこれからの社会において、subME はそのどちらをも支える新たなインフラとしての可能性を秘めている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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