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JRIレビュー Vol.7,No.79

諸外国で進む学校の第三者評価機関の設置とそこから得られる示唆(公開2019年6月)-子どもの権利実現に向けた学校参加・学校選択・学校支援

2020年06月11日 池本美香


わが国では義務教育において、不登校、いじめ、小学生の暴力、教員による体罰、いわゆるブラック校則やブラック部活動など、学力以外の問題が注目されている。一方、先進諸外国では、学校教育において、国連の「子どもの権利条約」の一般原則(生命、生存及び発達に対する権利、子どもの最善の利益、子どもの意見の尊重、差別の禁止)を実現するために、国レベルの施策として学校の第三者評価機関を設置し、すべての学校を共通の尺度で定期的に評価し、その結果を公表する動きが見られる。そこで本稿では、学力向上および学力以外の問題解決に向けた手法の一つとして、ニュージーランド、イギリス(イングランド)、スウェーデンの学校の第三者評価機関の取り組みを紹介し、わが国への示唆を考察する。

ニュージーランドでは、1989年の教育法改正とともに設置された教育評価機関(ERO)が、すべての学校を定期的に評価し、各学校の評価レポートをウェブサイトで公表している。教育法改正で重視されたのは、学校運営の自律性である。教育委員会制度が廃止されるとともに、各学校に選挙で選ばれた親、職員、校長、生徒代表などが参加する学校理事会(BOT)が置かれるようになった。EROの役割は自律性の担保であり、具体的にはBOTが有効に機能しているか否かのチェック、親へのフィードバックおよび学校へのコンサルテーションなどとなっている。

イギリスでは、1992年に設置された教育水準局(Ofsted)が、定期的な学校評価の実施と評価レポートの公表を行っている。ニュージーランド同様、各学校への権限移譲、学校理事会の機能強化、親の学校選択権の拡大を進めるなかで、地方当局の学校運営に対する権限が縮小するようになっている。Ofstedによる評価の特徴としては、評価に際し、子ども、教員、親からの情報をICTも活用して直接集めていることや、国の学校検索サイトで、Ofstedの評価レポート以外に学力調査の結果なども含めて学校を比較できることなどがある。

スウェーデンでは、地方分権が進み、学校運営の権限が国から自治体に移るなか、国として質をチェックする必要が生じ、2008年に学校評価機関(Swedish Schools Inspectorate)が設置された。スウェーデンでは、ニュージーランドやイギリスのような学校ごとの学校理事会の設置は義務化されていないため、学校評価機関は各学校の評価に加え、学校の設置・維持者(自治体、私学経営者)に遡った評価も行っている。さらに学校評価機関は、生徒や親の代理人機能も持っている。例えば、学校評価機関は生徒や親から学校に関する苦情を受け付け、調査し、学校に改善を求める活動を行っている。

これら3カ国における第三者評価機関設置の背景には、従来の国による画一的な学校運営体制から、地方分権、規制緩和、学校の自由裁量の拡大を進め、現場の創意工夫で多様な子どものニーズに対応できる自律的学校運営体制へ移行したことがある。そのなかで、学校参加、学校選択、学校支援の制度・仕組みが求められ、この三つを効果的に進めるため、改めて国レベルで学校評価機関を設け、共通の基準ですべての学校を評価し、その評価結果を公表する必要が出てきたといえる。そして、その評価の項目については、「子どもの権利条約」に沿った見直しが重ねられてきた。

これに対して、わが国は依然として、中央集権的・画一的な学校運営体制のままといえる。必然的に、わが国でも自律的学校運営がうたわれつつ、それを具体化するような施策がないか、機能していない。学校運営協議会の設置は努力義務にとどまり、かつ委員は任命制で、親や子どもが選挙で選ばれて委員になる自律的学校運営とは全く別物である。学校選択制を実施する市町村教育委員会は1割程度にとどまり、2012年以降、国は学校選択制実施状況の把握さえも行っていない。教育委員会による学校支援については、学校現場との馴れ合いで隠蔽される不祥事が多いとの指摘や、教育委員会の学校管理の強化で親や子どもの求める教育の多様性が実現できないなどの課題がある。学校評価は自己評価にとどまっており、学校の第三者評価機関の設置は検討されていない。

以上を踏まえると、わが国の課題として、以下の3点が挙げられる。
①まずは学校教育における子どもの権利実現の重要性を再確認すべきである。わが国では子どもの権利の促進・保護を担当する独立した国の人権機関がいまだ設置されていないなど、子どもの権利が蔑ろにされている面がある。
②子どもの多様なニーズに応えるために、当事者の参加にもとづく自律的な学校運営、学校選択、学校支援を強化すべきである。
③学校参加、学校選択、学校支援を効果的に進めるために、ニュージーランド、イギリス、スウェーデンのような学校の第三者評価機関を設置すべきである。その際、教員の支援につながる評価を目指すとともに、公的財源の制約を十分に踏まえ、効率的な制度設計が求められる。第三者評価機関の設置に伴い、教育委員会の在り方について、第三者評価の導入、廃止、必置規制の撤廃なども視野に検討することが期待される。
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