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JRIレビュー Vol.1, No.73

欧州経済見通し

2019年12月24日 藤山光雄


ユーロ圏では、2020年入り後、中国景気の減速一服や、Brexit・米中貿易戦争への懸念の後退などから、海外景気が持ち直しに転じ、製造業の生産活動が回復に向かうと見込まれる。ただし、欧州や中国の環境規制の強化が自動車産業の足枷となるほか、イギリス・アメリカとの通商関係をめぐる不透明感がくすぶり続けるため、製造業の力強い回復は期待し難い。一方、良好な雇用・所得環境を背景に、個人消費は底堅く推移する見通しである。また、政治をめぐる先行き不透明感の緩和が、フランスやイタリアの個人消費拡大の追い風となろう。

加えて、拡張的な財政政策がユーロ圏景気の下支えに寄与すると見込まれる。財政拡大余地の残存や緩慢な景気回復ペースなどを踏まえ、ドイツでは、対GDP比0.5%程度の追加的な財政出動が行われると想定している。ECBの緩和的な金融政策も、ユーロ圏の景気回復の後押しとなる。マイナス金利などによる銀行の金融仲介機能の低下に対する懸念は残るものの、家計や企業にとっては良好な資金調達環境が続くほか、政府部門の利払い負担の低減がユーロ圏各国の財政拡大の追い風となる。

一方、イギリスは、2020年1月末に「合意あり離脱」に至ると予想される。もっとも、EUや第三国との新たな貿易協定などをめぐる交渉は難航する公算が大きく、新たな通商関係の全体像を見通せない不透明感が、引き続きイギリス経済の重石となる。さらに、Brexitによる移民や海外からの投資の減少が、中期的にイギリス経済の成長力を削ぐ要因となる。

以上を踏まえ、景気の先行きを展望すると、ユーロ圏では、個人消費が底堅く推移するなか、製造業が持ち直しに転じ、景気は回復軌道へ向かうと見込まれる。ただし、製造業の力強い回復は期待し難く、成長ペースは1%台前半にとどまる公算が大きい。イギリスでは、Brexitをめぐる先行き不透明感が引き続き景気の重石となり、1%台前半の低成長が続く見通しである。

リスクシナリオとしては、アメリカ発の貿易摩擦の激化による製造業の低迷長期化や、中東情勢の緊迫化による原油価格の急騰により、景気の下支え役である個人消費の腰折れを招く展開が懸念される。また、EUとトルコの関係が悪化し、トルコによる難民抑制策が機能不全に陥れば、再び欧州に多くの難民が流入する恐れがある。
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