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ビューポイント No.2019-026

2020年度税制改正大綱の課題-財政再建の視点乏しく、成長促進効果も限定的。抜本的議論も置き去りに

2019年12月16日 立岡健二郎


 去る12月12日、2020年度の与党税制改正大綱が発表された。全体として、財政再建の必要性というわが国の課題に向き合ったものとは言い難く、当初から増税論議が封印されていたなかで、成長力底上げのための企業向け減税についても、少なくとも規模の面から効果は限定的と考えられる。他方、経済社会の構造変化やその要請に応える改正も盛り込まれており、これらについては評価できよう。

 わが国企業は内部留保を積み増す動きが目立ち、将来に向けた投資は未だ不十分とみられる。今回盛り込まれた「オープンイノベーション促進税制」は、わが国のスタートアップ投資が米中などに見劣りするなか、企業が非上場のスタートアップに出資した場合に減税するもので、オープンイノベーションの概念や重要性について、広く企業にメッセージを送るという意義はあるものの、実際の誘発効果については疑問符がつく。

 次世代通信規格5Gの整備等に関して、現状、わが国は諸外国の後塵を拝するなか、今回新設される「5G導入促進税制」は、携帯事業者・通信機器メーカーなどが5G整備計画を前倒しした場合などに減税するものである。こうした税制は、現下の状況に鑑みれば、やむを得ない面はある一方、国内の携帯事業者等の競争力を一段と損なうことにつながりかねず、厳に時限的措置にとどめるべきである。

 これまで、死別・離別のひとり親などに対しては、寡婦(夫)控除制度が段階的に拡充されてきた一方、未婚のひとり親には同様の制度が存在しないなどの課題があり、昨今の大綱においても継続的な検討課題になっていた。今回、未婚のひとり親にも寡婦(夫)控除の適用が拡大されたほか、ひとり親の女性と男性の間に存在していた控除内容の違いも性別によらない形で統一された。これらの改正については、婚姻歴の有無や性別による区別に合理的な理由はなく、子どもの貧困などの観点から高く評価できる。

 今回の改正プロセスでは、次のような2つの課題が積み残された。1つめは、本来、税制が公平・中立・簡素という課税の基本原則などに照らしてどうあるべきかという本質的議論がほとんどできていないことである。例えば、個人所得税、地方税、資産形成税制、金融所得課税などのテーマに関してであり、政府税調の役割が重要になろう。2つめが、政策税制の事後的な効果検証がほとんどできていないことである。厳しい財政事情にあるわが国では、既存の政策税制の効果をしっかり検証し、それを今後の税制改正の検討に活かすべきである。本質的議論に基づく踏み込んだ税制改革への取り組みが求められるといえよう。

2020年度税制改正大綱の課題-財政再建の視点乏しく、成長促進効果も限定的。抜本的議論も置き去りに(PDF:635KB)
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