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転換期にある社外取締役
~高まる要求レベルと選定方法の変化~

2019年08月01日 青木昌一


これまでの社外取締役の位置づけ
 上場、非上場を問わず、社外取締役の選任は法的には義務化されておらず、実際、非上場では選任していない企業も少なくない。また、選任していても、社外取締役に主体的な意見具申を求める企業から、取締役会に出席して何か発言さえしてくれれば良いという企業まで、社外取締役の位置づけは各社で全く異なる状況にある。
 ところが近年になって、社外取締役が果たすべき役割責任の要求レベルの高さが明確に認識されるようになった。2015年に施行され、2018年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードによって、例えば、社外取締役の具体的な役割や独立性、そして経営陣や監査役との連携に係る体制について詳細な要件が定められたためである。
 日本取締役協会が2018年8月に発表した「上場企業のコーポレートガバナンス調査」によると、3人以上の社外取締役を選任している東証一部上場企業は、2014年には259社、14.2%であったが、2018年には953社、45.3%にまで増えている。さらに、独立社外取締役を3人以上選任している企業は2014年の141社、7.7%から2018年に748社、35.6%となっており、各社が対応に動き始めていることが読み取れる。

社外取締役に対する期待役割の高まり
 そうしたなか、社外取締役の選任議案に対して反対票が投じられるケースが増えている。生命保険会社などの機関投資家の中には株主総会での議案に対する「議決権行使基準」を公表しているところもある。それらを見ると、
(1)取締役会への出席率
(2)独立性の確保、独立社外取締役の数または社外取締役の中の独立社外取締役の比率
等によって、個別の社外取締役候補者もしくはこれらを提案した会社の代表取締役候補者の選任への賛否を決定すると宣言している。特に取締役会への出席率は、兼任が多い社外取締役は十分な監督機能を果たせないとみなすとの意志も言外に込められている。
 しかし、これらはあくまで簡便な判定法に過ぎないのではないか。会社として期待する役割を果たすことができるスキル、例えば社内取締役ではカバーしきれないスキルを兼ね備えている社外取締役の候補者を選任すべしという流れが生じつつあるのではないかと考えている。

情報提供と選任方法見直しが社外取締役の能力を高める
 表に出にくい話なので社外の人間が触れる機会はあまりないのだが、今のところ社外取締役がその役割を十分に果たすことは難しい状況にある。
 例えば、好調な業績を維持する子会社の社長に対し、親会社の社長が交代の議案を提起すれば、大きな議論となるだろう。好業績を続けてきた子会社社長に対して社長失格の烙印を押してもよいのか、と社外取締役が異議を唱える可能性は高い。しかし、普段緊密にコミュニケーションをとっている親会社の社長以上の判断を社外取締役ができるのか、 という反論も当然出てくる。
 こうした意見はいずれも合理的なように見えるため、結論の出にくい論戦に持ち込まれやすい。しかし、特に情報提供における社外取締役への支援を強化し、彼らの判断に説得力を持たせることで状況を変えていくべきと考える。
 今後の企業の発展には、社外取締役が機能することが欠かせず、そのためのコスト増は避けられない。先日、某有名企業の社外取締役を補佐する担当者の話を聞く機会があったが、以前よりも格段に重要になった社外取締役の役割を支援するため、情報は多岐にわたって収集・分析し、主観を混じえず提供するよう努めているという。同社の経営では、補佐する側も補佐される社外取締役も相応の能力とエネルギーが求められるようになったとのことであった。今後、多くの企業では、増大する負荷に対する社外取締役の処遇の見直しに迫られることになると理解すべきであろう。
 なお、社外取締役候補者の選定には透明性が要求される。例えば、社外取締役に対する期待役割とそれに足る能力の証明を添えて株主総会に諮ることは必須となるはずである。また、社外取締役の独立性を担保するため、「関係者の紹介」に頼らずに済むよう、「社外取締役候補者のデータベース」を社会基盤として整備することを加速するべきである。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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