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日本総研ニュースレター 2019年7月号

チーム型ケアマネジメントサービスを立ち上げよう

2019年07月01日 齊木大


居宅介護支援への1割負担導入
 居宅介護支援(ケアマネジメント)の介護報酬への1割負担導入の議論が進んでいる。現在、ケアマネジメントは全額介護報酬で支払われ、利用者の自己負担はないが、これを他のサービスと同様に一定の自己負担を求めようとするものである。
 そもそもケアマネジメントにおける利用者負担がゼロとなった背景の一つに、誰もがマネジメントを利用できるように、との考え方があった。つまり、どのような介護給付サービスを活用できるのか、あるいは公的なサービスを利用する以外の選択肢もあるのかどうか、判断材料を得て利用者や家族が相談でき、専門的知見に基づいてマネジメントしてもらえることに意味がある。
 ところが、ケアマネジメントを、介護給付サービスの給付管理と調整の役割と矮小化して捉えてしまうことが、当の介護支援専門員も含めて少なくない。つまり、今後のケアマネジメントを考えるには、利用者の1割負担の是非を問う以上に、本質的に求められるケアマネジメントを確実に提供すること、またその体制を整備することが重要になる。

生活の見通しとプラクティスを語るのがケアマネジャー
 ケアマネジメントとは、利用者や家族が望む生活の実現に向けて、限られた資源を調整して、利用者や家族が生活をできるだけ長く継続できる環境を作り、QOLの維持・向上を実現すること、といえる。
 したがって、質の高いケアマネジメントで重要なのは、利用者や家族の状況に合わせて選択肢を幅広く提案し、社会資源を調整することである。そこで、その前提として利用者や家族が望む生活像を引き出し、QOLを維持・向上させる具体的な方法を、利用者や家族が判断できるように提案することなる。言い換えれば、質の高いケアマネジャーは生活の見通しを捉えて代弁し、具体的にどうしたらその生活が実現でき得るかの実践(プラクティス)を語る。
 自立支援の意味は、ADL/IADLといった動作の改善だけでなく、将来の介護量の抑制、極端に言えば将来の介護をゼロにすることにある。そのためには、今必要な“お世話”の手当てに留まらず、利用者自身でできる環境を整え、かつ気持ちを前向きに保てるようにすることが問われる。つまり、質の高いケアマネジメントの実現には、ケアマネジャーの相談援助技術とプラクティス知見の底上げが必要である。

チーム型ケアマネジメントサービスの可能性
 ケアマネジャーの資質向上を、研修やOJTといったアナログ手法のみで対応するのでは、人材育成にかかる時間が長く、コストも大きい。また、時間が長くかかるということは、新たな技術やサービスへのキャッチアップが遅れることも意味する。ケアマネジメントに求められる広範な専門領域のプラクティス全体を一人のケアマネジャーが習得しようとすると最低でも5年単位の時間を要するので、これでは今後の急増する相談需要に対応できない。
 したがって、今後取るべきアプローチは、一人で対応するのではなく、複数の得意領域を持った専門職を組み合わせたチーム型ケアマネジメントであり、利用者一人ひとりに合ったプラクティスの分析・提案と、実践をサポートするIoT/AIの活用である。
 チーム型ケアマネジメントサービスでは、看護、リハビリ、福祉、栄養、薬などの医療・福祉専門職の背景を持つケアマネジャーが集まるだけでなく、FP、自費(保険外)サービス、行政サービス、法曹職など医療・福祉サービス以外の領域の専門職も含めた体制が有効となる。このように幅広く対応できるマネジメントサービスであれば、要介護高齢者だけでなく、その手前段階の高齢者のニーズにも対応できる。
 こうした体制を整えたうえで、個別の情報の分析と地域の社会資源情報の収集にIoT/AIを活用する。導くべき答えは、訪問介護や訪問看護といったサービス種別に留まらず、個々の事業者が提供すべき具体的なサービス内容である。
 多様性のある専門職の“文殊の知恵”と、IoT/AIによる情報収集・分析の優位性、ケアマネジャーが持つ相談援助の専門性を活かした、チームとしてのサービスにこそ、これからの高齢社会が直面する課題を解決する可能性がある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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