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JRIレビュー Vol.10,No.71

【特集 外国人材の望ましい受け入れに向けて】
3章 持続可能な地域創生に向けた外国人住民施策について-新在留資格「特定技能」創設を機に求められる社会統合

2019年11月28日 高坂晶子


2019年4月の新たな在留資格「特定技能」制度の施行に伴い、今後、長期にわたって外国人就労者の増加が見込まれる。深刻な労働力不足の現状、特定技能資格への期待は高いが、一方で、外国人と日本人の多文化共生、あるいは外国人の日本社会への統合に向けた対処は容易ではない。とくに、従来、外国人在留者が少なかった地方圏では、円滑な受け入れに向けた準備が急務である。

地方における外国人受け入れの変遷を振り返ると、1990年、日系外国人の在留が解禁され、日系住民の急増に直面した一部の自治体は、母国語による公共サービスなど彼らのニーズの充足に努めたほか、地元住民とのトラブル対応にも追われ、外国人を「要支援者」と位置付けていた。しかし、次第に異文化交流や多様性(ダイバーシティ)の観点から外国人の在留にメリットを見出すようになり、近年では人口減少に悩む一部自治体の間で、外国人住民への期待が高まりつつある。

先進的な外国人対応として、北関東や東海地方に多い集住自治体は、30年にわたる多様な蓄積を有している。これらの自治体では、多文化共生の観点から、外国人のニーズを汲み取って、公共サービスの内容を調整したり、新規事業を立案してきた経緯があり、後発自治体にとって貴重な参照事例といえる。例えば、静岡県浜松市が長年注力してきた教育分野の取り組みからは、下記に挙げる三つの特徴を指摘できる。これらは教育分野にとどまらず、外国人施策全般に通底するポイントといえる。

第1に、市の側から外国人や受け入れ側の地域社会に働きかけること(アウトリーチ)である。市は彼らがSOSを発するまで手をこまねいているのではなく、積極的なアウトリーチを通じて問題の所在や固有ニーズを明らかにし、活動内容の見直しや独自施策・事業に結び付けている。この背景には、国が外国人対応に消極的であったため、自治体側に独自対応する余地が生じたことや、長年にわたる接触・交流を通じて、市民の間に外国人の固有ニーズや事情を理解し、充足しようとする姿勢が定着してきた経緯がある。

第2に、地元のネットワークを通じた包括的な外国人対応である。自治体および関係機関だけで行動するのではなく、住民ボランティアやNPO、大学、外国人コミュニティ、経済団体など様々な主体が関与し、包括的に対応している。浜松市では、異文化交流、言語、スポーツなど様々なテーマで外国人とかかわる主体が一種の社会インフラを形成しており、これらの主体の保有資源や特性がネットワークを通じて共有され、外国人のニーズに応じた支援が適時に提供可能となっている。

第3に、外国人のこども世代(次世代外国人)を地域社会の新たな担い手として育成する姿勢である。浜松市では、市や関係主体が次世代外国人を、多様性を体現する特徴的な地域資源と位置付けて活動の場や交流機会を提供している。この背景として、「外国人の多様性は地域経営にプラス」とみなす欧州の価値観が影響している。浜松市は、欧州の知見を取り入れ、次世代外国人の社会活動を積極的に後押ししている。また、ルーツは外国にあっても浜松で生まれ育った次世代外国人の場合、学校生活や地域活動を共にするなかで自然に日本人との連携を深め、共同して地域社会の担い手として活動を始めている。

今後、特定技能外国人の就労・定住を期待する地方圏の自治体は、独自の受け入れ方針と具体的施策を立案する必要がある。受け入れ方針としては、地域社会が外国人に期待する技能や資質、役割を洗い出すとともに、定住することで外国人が享受しうるメリットを盛り込んだ方針を作ることが望ましい。具体的な外国人施策については、集住自治体の先進事例が成功した理由や背景を分析し、それらを地域事情に合わせて調整しつつ、受け入れ環境の整備に取り組むことが現実的である。

急速に進む人口減少の下、わが国は外国人を経済・社会活動の担い手として受け入れる方針へと明確に舵を切ったものの、方針の急転換に直面して準備の整っていない自治体も少なくない。これらの多くは高齢化が進行しており、かつての集住自治体のように試行錯誤を重ねて独自対応に到達する時間や体力は乏しいのが実情である。このため、今から外国人の受け入れに取り組む自治体は、集住都市の先進的な知見を積極的に取り入れ、体制整備に要する時間を短縮する姿勢が望まれる。

外国人を地域社会の一員として受け入れるスタンスの醸成も重要である。今回の特定技能資格の創設は労働力不足に迫られた結果であり、受け入れ側の関心事は経済上のメリットに集中しがちである。しかし、外国人住民に実利ばかり求める姿勢、例えば「単なる労働力」とみなすことは地域の持続可能性を損なう方向に作用しかねない。外国人固有の生活ニーズを充足したり、地域社会に溶け込めるようフォローすることは自治体をはじめとする地域主体の重要な役割といえよう。
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