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JRIレビュー Vol.10,No.71

【特集 外国人材の望ましい受け入れに向けて】
6章 オーストラリアの移民政策の現状と評価-注意深い開国政策による人口増加で成長を実現

2019年11月28日 翁百合


わが国では、深刻な人手不足に対応するため、外国人労働者受け入れ拡大に向けて2019年4月から新制度がスタートした。今回の外国人労働者の拡大について、安倍総理の法案審議中の国会での答弁では、あくまで技能実習生制度を修正してその枠を広げるものであり、「いわゆる「移民」とは異なる」との見解を明らかにしている。一方、よく知られているように、オーストラリアは多くの移民を受け入れてきた移民国家であり、1970年代に人口問題を移民増加によって解決しようと舵を切った。人口増加率は、2010年代で1.5%程度とOECD諸国のなかでも最も高い部類に入り、オーストラリアは移民によって社会が成立している国となっている。

オーストラリアは試行錯誤を繰り返しながら白豪主義と決別し、90年代後半からは、熟練労働者などの技能を持つ外国人を、定住を基本とする移民として積極的に受け入れてきた。受け入れにあたっては、職種別の不足労働力を緻密に計算して、必要な受入数を毎年決定し、技能や英語能力などを勘案するポイント制などを活用して外国人移民を慎重に選別してきた。イノベーション発揮のためにも多様性を重んじることが重要と考え、文化的な多様性を尊重しつつ、社会秩序の安定と国家発展を目指す「多文化主義」の政策を推進してきている。受け入れにあたっては、政府や州が外国人共生のための様々な施策を進めてきた。

オーストラリアの移民政策は、次のような点から、近年の同国の持続的成長に大いに貢献していると評価されている。第1に、不足気味であった労働需要の充足が各職種で実現してきている。第2に労働参加率の上昇(participation)、生産性の上昇(productivity)、人口の増加(population)という三つのpにより、持続的な経済成長が可能となっている。90年代以降連続して世界最長の26年間経済成長を続けている背景として、積極的な移民受け入れが指摘されている。第3に、若年層の移民が増えているため、人口高齢化スピードを抑制している。

一方で、移民が都市部に集中してしまい、そのため都市部のインフラ不足の問題が発生していること、さらに移民の増加により、住民との共生に対する懸念も地方などで拡大していること、などの問題も指摘されるようになっている。こうしたこともあり、現在オーストラリアは高度人材受け入れを一層推進する一方、全体としては抑制気味に受け入れる方向に変化している。

オーストラリアは移民政策を人口増加による成長戦略として位置付け、経済的便益を大きくするために、緻密なデータ分析に基づき、自国にとって必要な外国人を選択的に受け入れるといった、注意深い開国政策をとってきた。また、常時検証を重ね、微妙なバランスをとりながら政策を運営してきている。多文化共生に対する許容度が大きいと思われる移民国家とよばれるオーストラリアでも、慎重に練られた外国人受け入れ政策をとり、労働市場の状況変化に合わせて政策調整しながら改革をしてきていることは、日本が今後外国人の長期的受け入れのあり方を正面から検討するにあたって参考にすべき点が多々あると考えられる。
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