2015年9月にSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択されてから約4年が経過し、わが国でもSDGsに対する関心が徐々に高まりつつある。医療・教育などが相対的に充実しているわが国が世界レベルのSDGs達成に貢献していくうえでは、国内状況を一段と改善させるだけでなく、国際協力や海外事業展開を通じて新興国各国に国内のプラス効果を波及させていくという視点がより重要となる。その際、とりわけ注目されるのがビジネスと開発援助の親和性の高いインドである。本稿は、インドのSDGsの達成状況を確認するとともに、わが国がインドのSDGs達成にどのように関与していくべきかを考察する。
インドは、イノベーション創出、ジェンダー平等、飢餓削減などをはじめ、SDGsの分野で様々な課題を抱えている。政府はSDGs達成につながる政策を打ち出しているが、①政策の適切な実施および有効性の検証を通じた運用方法の見直し、②予算拡充やデジタル化による行政コストの削減、③政治対立の回避を通じた必要な改革の着実な実施、などを通じて政策効果を高めていく必要がある。
インド企業の取り組みをみると、収益性が高く資金力にゆとりのある資源・エネルギー、重化学工業、輸送機械産業、IT産業、銀行業などで、SDGsやESG (環境、社会、企業統治)の視点を積極的に事業計画に取り込もうとする動きがみられる。今後、収益拡大の観点からも企業がSDGsにつながる取り組みを活発化させていくかは、①それらに対する優遇措置の拡充、②逆にSDGs達成を阻害する活動に対する規制強化、などのインセンティブ設計がポイントとなろう。
インドの経済・社会の発展とわが国の関係をみると、かつてはODAが中心的な役割を担っていたが、日系企業の対印直接投資の増加に伴い、今後は民間の事業活動が主たる役割を担うと予想される。日本政府としては、民間参入が困難な分野では引き続きODAによる支援を行いつつ、①日印政府間協議を通じた在印日系企業の事業環境改善への働きかけ、②在印日系企業のSDGsに関連したパートナーシップ構築支援、などを通じて、ビジネスと開発援助の一体性を高める側面支援が望まれる。
在印の日系企業は、本社が策定するSDGsの視点を取り込んだ経営方針をインドの実情に応じてアレンジすることで、SDGsをインド事業に取り込んでいる。ただし、日系企業の事業進出先は相対的にSDGs達成度の高い地域に集中しており、所得水準の低い地域の経済・社会開発への貢献は限られる。今後は、日印両政府や援助機関とのパートナーシップを積極的に活用しながら、経済・社会問題の解消と事業拡大の両立を目指して、インド国内の事業展開地域を一段と拡大させることが期待される。
・世界のSDGs(持続可能な開発目標)達成のカギを握るインド(PDF:1804KB)
