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世界で高まるプラスチック対策
~日本発の新たな事業機会となるか~

2019年07月01日 段野孝一郎


輸入制限強化が進む廃プラと求められる自国内適正処理
 2019年6月28~29日のG20大阪サミットに先立ち、6月15~16日にかけてG20エネルギー・環境省会合が長野県軽井沢で開催された。本会合では主要議題として海洋プラスチックごみ対策が取り上げられ、数値目標の設定などこそ見送られたものの、海洋プラスチックごみ削減に向けた国際的枠組みの創設などを含む共同声明が採択された。今後、国際的な対策が進むと想定される。
 海洋プラスチックごみ問題は、2016年のダボス会議でその影響が報告されて以降、世界的に急速に議論が進められてきた。海洋プラスチックごみは、海洋汚染を引き起こすだけでなく、分解過程で生じるマイクロプラスチック等が魚類に堆積し、それを口にした人体へも悪影響を及ぼすことが問題視されている。従来、プラスチックごみ(いわゆる「廃プラ」)は、安価な原材料や燃料として再利用可能なことから、「資源」として利用可能な国へ輸出し、再生処理を行うことが多く行われてきた。しかし、こうした問題を踏まえ、各国は相次いで廃プラに輸入制限をかけるようになってきている。2019年5月にはバーゼル条約が改正され、新たにリサイクルに適さない廃プラが規制対象となったため、廃プラ輸入制限はより一層拡大すると見込まれる。今後は自国内でプラスチックを適切に処理する対策が求められるだろう。

「プラスチック資源循環戦略」が後押しする日本の環境技術
 世界的に見ると、いまだに廃棄物の処分を埋め立てに依存している国が多い。一方の日本は、早くから3R(Reduce、Reuse、Recycle)に取り組んできた廃棄物処理の先進国と言える。廃プラ対策の観点では、2000年12月の「容器包装リサイクル法」(容リ法)導入をはじめ、早くからプラスチック資源循環に取り組んできた実績がある。政府も日本の優れた環境政策や民間企業が保有する環境技術を認識しており、廃プラに対する世界的な議論を受け、世界のプラスチック資源循環対策の議論をリードするべく、3R+R(Renewable: 再生可能資源への代替)を基本原則とした「プラスチック資源循環戦略」を2019年5月に策定した。G20では2050年までに海洋プラスチックによる新たな汚染をゼロにする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有され、政府は世界規模での課題解決をリードする姿勢を強調した。
 「プラスチック資源循環戦略」に基づき、既に政府は、Reduce(レジ袋有料化義務化等のワンウェイプラスチックの使用量削減)、Recycle(プラスチック資源の分かりやすく効果的な分別回収・リサイクル)、再生材バイオプラスチックの利用ポテンシャル向上(技術革新等)および利用インセンティブ強化、海洋プラスチックごみ対策(マイクロビーズ削減徹底)、基盤整備(バイオ技術を活用した海洋分解性バイオプラスチック等の革新的新素材の開発、再生可能資源によるプラスチック代替等)の方向性を打ち出している。それに呼応するように、例えば石灰石を原料とする代替プラスチック素材を開発するスタートアップのTBMが事業を積極的に拡大するなど、日本企業も様々な研究開発、新商品・新サービス提供を開始しようとしている。プラスチックは石油由来の製品であり、再利用や他の資源での代替は、石油の消費を削減し、気候変動対策(脱炭素)にも寄与し得る。

G20後、官民挙げてのプラスチック循環取り組みに期待
 歴史を振り返ると、日本における環境政策は経済成長とその結果生じる環境問題の相克であったと言える。1960年代の公害対策、1980年代のオイルショックによる省エネ対策、1990年代の生物多様性対策、1990年代後半からの地球温暖化対策(2015年のパリ協定を踏まえ、それまでの「低炭素」から「脱炭素」へと強化)、2010年代からのESG/SDGsへの配慮など、様々な環境の変化があり、いずれも日本企業の経営にとって大きな影響を与えてきた。しかしその過程で、経済成長から生じる社会的課題に政府・企業とも向き合い、課題を克服するとともに、課題解決策を本邦企業の競争力強化や新たな事業機会の獲得に結び付けてきた歴史がある。
 世界的にプラスチック循環が注目を集める中、日本企業が有する技術を基に、日本発の事業・製品・サービスによって、課題解決に貢献できることができれば、大きな事業機会になるはずだ。G20大阪サミットを契機に、官民を挙げた取り組みが一層加速し、奏功することを期待したい。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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