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新たな地域通貨が促す農村DX

2019年10月23日 今泉翔一朗


 10月1日の消費増税にあわせて政府主導で始まったポイント還元制度を追い風にして、キャッシュレス決済が拡大している。キャッシュレス先進国の韓国や中国等と比べれば、日本のキャッシュレス比率は2016年時点で19.9%と未だ低いが、政府は2025年までに同比率を40%まで高めることを目指している。

 キャッシュレス決済の導入が先行するのは、概ね都市部であろうが、実は、いわゆる農村と呼ばれる地域にこそ、導入意義があると私は考えている。
 農村を見渡すと、インフラ更新や高齢者への社会保障サービスのニーズが高まる一方で、人口減による税収減等により、今後のコミュニティとしての継続性が危ぶまれている。さらに、従来、地域農家が自発的に無償で実施してきた草刈等も、農業生産者が減少する中で、実施が難しくなっていると聞く。

日本総合研究所が提唱する「農村デジタルトランスフォーメーション(農村DX)」は、そうした課題を受けて、農業生産に関わるインフラと、農村生活に関わるインフラをデジタル化し、相互連携させることで、課題解決と付加価値の創出を目指そうとするものだ。たとえば、農業で活用が進むドローンや水位センサーを災害対策に活用したり、地域農家が出荷の帰りに地域内物流を担ったりするといったアイデアが考えられる。

 農村DXを実現するポイントの一つは、今ある地域リソースを棚卸ししてみることだ。リソースには、インフラや地域資源も含まれるが、地域住民の力も含まれる。地域住民の働きを促す方法として、ポイント付与による経済的メリット創出が考えられる。現金や地域商品券の給付だと、行政と住民の一方通行のやり取りで終わり、地域内の資金循環も生まれない。そこで、地域通貨の活用を考えたい。地域通貨であれば、行政と住民、住民と地域商店、さらには住民と住民といった関係性が生まれ、かつ地域内資金循環も促される。
 ただ、従来の地域通貨では、通貨の発行や管理に極めて大きな人手を要し、コスト高で断念されるケースが多かった。ところが、近年のキャッシュレス決済技術により、従来よりも低コストで、かつ発展的な機能を持つ地域通貨の可能性が注目を集めている。電子地域通貨だ。

 たとえば、フィノバレー社が提供する電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を活用して、岐阜県飛騨高山地域と千葉県木更津市は、独自の電子地域通貨を発行している。決済手段は、QRコードを使用しており、利用者はスマホの専用アプリに入金しておく仕組みだ。一方の、地域店舗等は、QRコードの書かれた紙をレジ横に置くだけで、新たな設備投資の必要はない。飛騨高山地域では、電子地域通貨を使える店舗が1,000店規模まで広がり、税金や電気料金の支払いもできるという。木更津市の場合は、それに加え、ボランティア活動等に対し、市から電子地域通貨を活用して、ポイントを付与し、地域における支え合い等を促進することを目指していると聞く。

 こうした電子地域通貨の基盤があれば、農村DXのサービス提供者が独自にポイント発行・管理・調整を行う必要がなくなり、地域住民の力を取り込みやすくなる。将来的に、DXのインフラ・システムを活用して、地域住民のお困り事に地域住民が対応した際のお礼や、住民が立ち上げた事業の対価として電子地域通貨が使われるようになれば、住民と住民の新たな関係性の構築にもつながるだろう。従来は、人がくれた恩は、その人に返すしかなかった。それは良い面もあるが、重たい縛りとなり、そこから生まれる地域の閉鎖性が、若者の農村から逃れたくなる理由の一つにもなった。しかし、地域通貨であれば、人がくれた恩をその人でなく、別の人に返すこともできる。地域通貨が浸透している神奈川県藤野地域では、そうした、広くて、しかもちょうどよい深さの人と人のつながりが、地域を支えていると聞く。電子地域通貨によって、住民が活躍し、農村を支える農村DXの流れが促されることを期待したい。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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