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ビューポイント No.2019-024

2020年代に向けた内外情勢と経済政策運営-米中対立長期化の下での成長戦略

2019年10月23日 山田久


消費増税の直接的なマイナス影響は前回引き上げ時(2014年4月)に比べ小さいとみられるものの、足元製造業を中心に企業の景況感は悪くなっている。背景には、米中摩擦をはじめとした世界情勢の不安定化があり、統計的にも世界貿易の停滞が確認できる。当面は政府の家計支援策が支えるにしても、その効果が一巡することもあり、東京五輪後には一気に景気のモメンタムが下を向くリスクは否定できない。

貿易動向から読み取れる世界経済の現状は、①米国経済は堅調であり、トランプ政権は保護貿易スタンスを強めているが、依然として世界から輸入することで世界経済の下支え役を果たしている、②中国経済の減速が同国の輸入を減らし、ドイツや日本の景況感を悪化させている、③牽引役のドイツの下振れでユーロ圏の景気が悪くなっており、④中国経済の減速は輸入伸び悩みを通じて新興国景気のスローダウンにもつながっている―というものである。

中国の輸入はとりわけ機械類で大きく減少しており、中国がグローバル・サプライチェーンの中で組立工程を担う、エレクトロニクス産業の世界的な減速の影響を反映した動きと考えられる。中国国内のインフラ投資の抑制で建設機械需要が落ちていることや、貿易戦争による先行き不透明感の高まりから産業機械需要が下振れしていることも反映されている。一方で、機械類以外の輸入は堅調に推移しており、国内景気が消費活動を中心に底堅さを維持していることを示唆している。過剰債務などの構造問題は十分な注視が必要なものの、中国政府は景気下支えのための政策余地をなお有している。2020年代前半の平均成長率は現状対比低下していくとみられるものの、国民の消費水準の着実な向上を踏まえれば、「5.5%を下回らない程度」の比較的底堅い成長を維持する公算が大きい。

一方、米国経済を見ると、景気拡大期間が戦後最長を更新するなか、循環的には景気拡大のモメンタムはピークアウトしつつあるようにみえる。もっとも、FRBの金融緩和余地はなお残っていること、さほど大きな金融面での不均衡が存在するわけではないこと等を踏まえれば、向こう数年のうちに米国が深刻なリセッションに入る可能性は高くない。結局、2020年代半ばごろまでを展望したとき、米中経済ともに減速するものの深刻な景気後退に陥る公算は小さく、その意味ではスローダウンしつつも世界同時不況への突入は避けられると予想する。

半面、米中間の摩擦は激しさを増していくであろう。中国はすでに持久戦に備えているし、米国も来年の大統領選で誰が勝利しようと国民意識からみて対中強硬路線は変わらない。とりわけハイテク分野で米国の中国に対する攻撃は先鋭化し、米国企業のみならず、同盟国企業に対しても中国への先端技術の漏洩を許さないであろう。結果として、デジタル産業を中心とした先端技術分野での世界の分断が進んでいく公算が大きい。もっとも、ドイツをはじめとした欧州企業にせよ日本企業にしても、韓国やシンガポール、ASEAN諸国も、過去20年間で中国との経済的な結びつきを深めており、汎用技術分野や日常生活に関わる財やサービス分野では、中国と各国の貿易・投資関係は継続されるだろう。中国も欧州や日本に対しては、友好関係の維持を働きかけてくるなかで、今後の世界経済はスローダウンしつつも失速を避け、各国の経済関係は分断と交流が交錯する形で複雑に再編されていくとみる。

わが国景気の現状は、製造業の急速な悪化に比べて、非製造業が堅調を維持しているという、「製造・非製造のデカップリング」状態にある。製造業については景況感の厳しい状況が続くとみる必要があるものの、世界同時不況は回避できるという見方が正しければ、製造業の業況が底割れすることは避けられる。懸念される円高も、貿易収支の赤字化や日銀の金融緩和スタンスを勘案すれば、かつてのような超円高は回避できるように思われる。一方、非製造業が堅調な背景には底堅い内需があり、それは構造的な人手不足を背景とした所得雇用環境の改善と建設投資の回復に支えられており、この先も大都市部における再開発案件の息の長い持続が期待できる。外需の不透明感による製造業の投資マインドの一層の慎重化を避け、内需の好循環を強める政策運営ができれば、緩やかながらも国内景気の拡大持続は可能とみることができる。

以上のようにみてくれば、2020年前半にかけての内外経済情勢は決して楽観はできないものの、最悪ではない。中国経済が減速しつつも成長を続ければ、それに伴ってアジアが成長を続け、豊かな人々が着実に増えていく。そうしたなか、インバウンドの一層の増加や輸出拡大等により、アジアの成長力をわが国経済に活かせる状況は続くであろう。一方、中国ビジネスには知財や各種制度面のリスクはつきものであるが、データ活用事業などで米国以上に自由な面があり、日々進化する世界第2位の巨大な成長市場に関与していくことは意味がある。中国での現地事業にはますます戦略的思考が必要になり、大きなリスクと隣り合わせであるが、官民の外交力を最大限に駆使しながら、中国の消費力を梃子にして自らも活性化するという、したたかな戦略が求められている。

日本政府としては米国やEUと密に連携しつつも独自のスタンスを貫いて、日本企業が中国でのビジネスの成果(ノウハウ、利益)を国内に還流できるよう、粘り強くルール作りを進めることが求められる。さらに、そうしたルールをアジア全域に広げ、透明性の高いイノベーティブな成長市場を、東南アジア・南アジア地域に広げていくことを目指すべきである。そうしたアジアとのウィン・ウィン関係の構築と連動させた内需拡大の成長戦略を描くことが、いま日本政府に求められていることである。その結果として企業が内外の経済に中長期的な成長期待を持ち続けることが最大の景気対策になる。景気の大きな下振れリスクに対しては、財政の大盤振る舞いや一段の金融緩和ではなく、成長戦略の前倒し実施によって備えるべきであろう。

2020年代に向けた内外情勢と経済政策運営-米中対立長期化の下での成長戦略(PDF:937KB)
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