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CSRを巡る動き:不動産投資信託(REIT)における洪水リスクの情報開示

2019年11月01日 ESGリサーチセンター


 不動産投資信託(REIT)の情報開示において、保有不動産の洪水リスクや過去の洪水被害履歴を開示しなければならなくなる。そんな時代が近く到来するかもしれません。米国では近々、賃貸人や住宅購入者に対し、不動産を引き渡す前に洪水リスクや過去の洪水被害履歴の情報開示を義務付ける法案が成立する見通しです。

 米国では、ハリケーンや洪水などの自然災害が多額の経済的損失をもたらしてきた経緯から、連邦直営の自然災害保険制度(National Flood Insurance Program:NFIP)を設けています。NFIPは根拠法に基づき制度設計されていますが、2019年9月末に法律の有効期限が切れるため、「National Flood Insurance Program Reauthorization and Reform Act of 2019」という新たな法案によって制度自体が見直される予定です。今回の見直しでは、気候変動によって顕在化している海面上昇や激しい豪雨によるリスクを踏まえ、新たに洪水リスクの情報開示が義務付けられたのです。法的要求事項として、「賃貸人や住宅購入者に対して、不動産の洪水リスクや過去の洪水被害についての情報を開示すること」が明確に規定されました。

 洪水リスクの情報開示の義務化は、REITにとっても他人事ではありません。これまで沿岸エリアの不動産は内陸エリアと比べて利益率が高いことから、価格も上昇傾向にあったと言われていますが、洪水リスクなどの情報開示が必ずしも義務化されていなかったことがその傾向を支えてきたと考えられます。米国の資産査定会社の調査によると、少なくとも88の米国におけるREIT(資産総額で約8,000億ドル)が、海面上昇による最も高いレベルのリスクにさらされていることが分かっています。米国最大の年金基金CalPERSも、これらのREITへの投資を通じて、14億ドルの資産が海面上昇リスクにさらされていることをアニュアルレポートで明らかにしました。米国では州によって洪水リスク情報開示に関する法令が著しく異なり、法の抜け道を使って洪水リスクを開示せずに不動産を取引することも可能でしたが、今回の制度の見直しにより全米で情報開示が義務付けられれば、不動産価格にも少なからず影響が生じるでしょう。不動産価格に影響するとなれば、投資家も、運用会社に対して保有不動産の洪水リスクや過去の洪水被害の履歴を開示するよう要請する可能性があります。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年9月に公表した報告書によると、このまま気候変動が進めば、南極の氷が速く解けるなどして2100年までに「平均海面水位が最大1.1メートル上昇する」、「1年当たりの沿岸の浸水被害は現在の100~1000倍に増加する」と言われています。日本でも、台風の大型化や局地的な豪雨の増加により洪水被害が深刻化し、実際に水害の被害額は増加傾向にあります。不動産の洪水リスク情報開示の義務化は米国で始まろうとしている動きですが、過去に幾度も浸水被害を受けている日本ではなおさら、こうした検討が開始されても不思議ではありません。日本版REIT (JREIT)でも、気候変動問題を起因とした洪水などによる長期的なリスクを見据え、情報開示義務化に備えるべき時が来ていると言えるでしょう。

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