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JRIレビュー Vol.11,No.72

わが国におけるCEOのキャリア実態調査-TOPIX500社におけるCEOのキャリアカーブと企業パフォーマンスとの関係性を中心に

2019年12月10日 綾高徳、二松学舎大学 国際政治経済学部准教授 小久保欣哉


コーポレートガバナンス・コード(2018年6月改定)は「(抜粋)取締役会は最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである」と謳っている。従来、わが国の多くの企業では、CEO(Chief Executive Officer)後継者の指名とそこに至る育成は社長の専権事項・役割であると位置付けられてきたが、コーポレートガバナンス・コードは、CEO後継者の計画的育成と指名を取締役会の役割として明確に求めるという新しい発想を提示しており、わが国のCEO後継者をめぐるガバナンスの在り方は変革の時期に差し掛かっているといえる。

本稿では、各企業がCEO後継者育成計画を検討する際のベンチマークデータを提供することを目的に、EDINET(Electronic Disclosure for Investors’ NETwork)提出の国内上場企業(TOPIX500)におけるCEOのキャリア実態を調査・分析した。その結果は、以下3点である。

第1に、わが国における平均的なCEOは大学卒(院卒含む)で入社したのち、50.4歳(勤続23.8年目)で取締役に就任し、55.7歳(勤続29.1年目)でCEOに就任している。社員としての期間(雇用契約期間)が非常に長い一方で、取締役の期間(委任契約期間)が非常に短く、新卒一括採用と終身雇用というわが国の雇用慣行が、CEOのキャリアに色濃く反映されている。

第2に、CEOに就任するまでにグループ会社等でCEOを経験した者は全体の3割であった。なお、それらの者が初めてグループ会社やその他の企業でCEOに就任した年齢は平均49.9歳であった。

第3に、CEOのキャリアと企業パフォーマンスの関係については、CEO就任年齢が若いほど、また入社後早期にCEOに就任するほど、株式時価総額に正の効果をもたらすことが示唆された。

上記結果から、CEO後継者育成・指名の方策における重要なポイントが、二つ指摘できる。第1は垂直経験と水平経験の融合である。水平経験とは、グループ会社の役員ポジションをCEO後継候補者のキャリア形成に組み込むことである。グループ会社への異動は左遷やキャリアの終わりに等しいか、親会社の役員経験者(役員OB)を処遇する受け皿にすぎないことが多いが、むしろキャリア形成機会として活用すべきである。それにより、①親会社とは異なる事業領域や企業文化を比較的少
ないコストとリスクで実経験させることができ(多様性の内包)、さらに、②優秀で、若く、将来性のあるCEO後継候補者にポジションを任せることができる。彼ら自身の成長と、同じ境遇のCEO後継候補者間(CEO候補者の人材プール)で競争を通じて成果を出すというインセンティブが働くために、グループ会社の経営成績向上も期待できる。CEO後継者育成プログラムを策定するうえで、社内で昇進ルートを歩む垂直経験とグループ会社等を渡り歩く水平経験を意図的に組み合わせることが重要になる。そのためにグループ内でCEO後継候補者の育成に値する役員ポジションの洗い出しと各ポジションの活用方法の検討が欠かせない。

第2は企業のライフサイクルステージに適したCEOのコンピタンスの明確化である。わが国では往々にしてCEO後継者の選任は順送りであり、ライフサイクルステージに適したコンピタンスの有無を基準にした人選が行われてきたとは言いがたい。企業理念やビジョンの実現力を普遍的なCEOのコンピタンスとしつつも、例えば、主力事業の立て直しができる╱海外での成長を加速できる╱現状の方向性を堅持してグループをしっかりとまとめながら安定的成長を維持できる等々、企業のライフサイクルステージの特性に応じてCEOの持つべきコンピタンスは異なり、それを特定したうえで、しかるべきCEOを指名するのが本筋である。そのためにCEO後継者の候補者群(プール)を豊かに保てるように、コンピタンスの多様性を意図した人材育成が欠かせない。

今後の取締役会・CEOの在り方に関する研究の方向性を展望すると、CEOに指名される最後の一人(the last one)よりも、取締役会の構成メンバーをいかに最適化するかが重要なポイントとなろう。CEOを含む取締役全員が適切にチーム(機関)として機能するために、複雑な経営課題に対応できる多様性を取締役会に内包しておくことが望まれる。性別や国籍が多様であることそのものに価値があることに疑いはないが、本質的には各取締役の専門性と経験(言い換えるとコンピタンス)の多様性こそが競争力の核となる。CEO候補者のキャリアを計画的にコントロールして育成していくことと、取締役会の構成メンバーを最適化することを、併せて考えていくことが重要となろう。
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