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CSRを巡る動き:就職氷河期世代への支援

2019年10月01日 ESGリサーチセンター


 1990年代初めのバブル経済崩壊後、日本企業は新卒の採用数を大幅に減らしました。この結果、多くの学生が就職活動で厳しい状況に直面したのです。そのような時代を経験した人達は、「就職氷河期世代」と呼ばれ、1993年から2004年頃に高校、短大、大学を卒業した世代が該当します。この層の生産年齢人口に占める割合は22.4%(*1)に上り、全人口の大きなウエイトを占めることが特徴です。正規雇用での就労を希望していたにも関わらず、非正規就労とならざるを得なかった人は少なくありません。日本企業の労働市場の流動性の乏しさを背景に、現在に至っても不本意ながら、非正規就労となっている人たちへの支援は、社会的課題に対する必要な解決策の1つであるといえます。

 2019年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society』への挑戦~」(骨太方針2019)が、経済財政諮問会議の答申を経て、閣議決定されました。そのなかでは、所得向上策の1つとして、就職氷河期世代支援プログラムが掲げられました。施策の方向性としては、「相談、教育訓練から就職までの切れ目のない支援」と、「個々人の状況に合わせた、より丁寧な寄り添い支援」が挙げられています。前者では、就職相談体制の支援や、リカレント教育の確立、採用企業側の受入機会の増加につながる環境整備等が含まれ、ノウハウの提供や採用の受入という点で、民間企業のアクションが期待されています。

 人材紹介会社であれば、本業を通じて就職氷河期世代の支援を行うことが可能ですが、そのような支援が難しい多くの企業では、どのような取組みを行うことが期待されるのでしょうか。

 不安定就労解消のためには、正規雇用としての受入体制の強化が求められます。「有期契約労働者に関する調査2018」(連合調べ)によれば、正社員になれず、有期契約で働く不本意有期契約労働者と呼ばれる人たちは、契約社員の4割半に上ることが明らかになっています。調査対象者は、就職氷河期世代に限定されていませんが、正規雇用への転換自体がいまだに容易ではない現状が窺えます。しかし、一部の企業では、政府の骨太方針を受けて、就職氷河期世代への支援に賛同し、インターンシップなどを取り入れて、中途採用活動を行う企業が出てきました。労働力不足が懸念される業種、業界にとっては、正規雇用としての就業を強く希望する就職氷河期世代を積極的に採用し、育成する機会を提供することは、企業のブランドイメージ向上につながるとともに、人手不足問題を軽減するチャンスにもなるのではないでしょうか。

 加えて、就職氷河期世代の受入体制の強化をしつつ求められるのが、全従業員に対するキャリア支援体制の強化です。労働政策研究報告書「キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ」(平成29年3月)(労働政策研究・研修機構)によれば、キャリアコンサルティングの相談場所・機関として、最も多かったのは「企業外」(44.3%)であり、「企業内(人事部)」(12.5%)、「企業内(人事部以外)」(8.8%)は1割程度に留まっています。企業が自社の従業員にキャリア相談ができる場所を提供しているケースは少ないことが分かります。就職氷河期世代をはじめとした中途採用の拡大、定年延長、仕事と生活が両立できる環境整備等に伴い、多様な人材の活用は、ますます重要な課題となります。単に働き手の数さえ補えばよいという問題だけではなく、生産性の向上という質の問題に対処していくために、従業員一人ひとりのキャリアをきめ細やかに支援していくことは、企業の責任としてさらに求められるでしょう。

 就職氷河期世代への支援は、短期的には企業の価値向上につながりにくいかもしれません。しかし、社会のなかで多くの人口を占める世代の所得が、他の世代より相対的に低く、生活が不安定である状況は、将来の社会不安のリスクになる可能性を否定できません。こうした問題に腰を据えて、真摯に取り組む企業こそがESGに取り組む企業といえるのではないでしょうか。

(*1) 平成31年第5回経済財政諮問会議
資料2-2 就職氷河期世代の人生再設計に向けて(参考資料)(有識者議員提出資料)
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