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リサーチ・フォーカス No.2019-016

“出生数”から地方創生戦略を検証する-一極集中是正は人口の増加の特効薬にならず

2019年08月28日 藤波匠


政府が2014年に策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略(以後、地方創生戦略)」が、見直し時期に差し掛かっている。本年6月19日にリリースした地方創生再考シリーズ第1弾では、人口移動に注目し、地方創生戦略の成果について検証した。第2弾となる本稿では、地方創生戦略の背景にある「東京一極集中是正が、わが国の人口減少の抑制につながる」という考え方について検証を試みた。

地方創生戦略では、「東京への人口の集中が、日本全体の少子化、人口減少につながっている」として、若い世代の地方定着に資する社会環境の整備の方針が示された。しかしながら、近年出生数の減少には歯止めがかからず、新たに設定された「結婚希望実績指標」、「夫婦子ども数予定実績指標」にも改善が見られない。本年の出生数は、6月までの月次データでみる限り、前年を大幅に下回っている。

わが国の出生数は右肩下がりであるものの、内訳をみると、東京都のみ一旦は下がった出生数が回復している。東京近郊では、女性の就業率の高まりとともに、婚姻世帯、とりわけ子供がいる世帯において、より就労場所に近い地域に暮らす傾向がみられる。加えて、近年、保育所の整備が都内を中心に進められている。以前は子どもを預けることができず、子育て世代が近県に転居するケースもみられたが、保育所の門戸の広がりとともに、子育て世代が都内にとどまるようになったと考えられる。

そもそも、東京一極集中が少子化を招いているという考え方は非合理的である。近年の出生数の減少を、「出生率」、「女性の年齢構成」、「女性数」、「居住地」の各要因に分解すると、出生率の低下、女性の年齢構成の高まり、女性の減少の3要因で説明が可能であり、東京への人口集中の影響は軽微であることが分かった。これは、出生率の地域格差が小さく、通常の人口移動の規模では、都道府県別の居住比率に与える影響もわずかであることことによる。そのため、仮に東京への人口流入を抑えることができたとしても、わが国全体でみた出生数増は期待し難い。

地方創生戦略で考慮すべきは、地方において、長期定住を可能とする所得・雇用が確保できるように、仕事の質を高めることである。若い世代や女性が質の高い仕事に就ける環境を創出することこそが地方創生の本質であり、結果として、女性の社会参画や出生率の好転にもつながると考える。

“出生数”から地方創生戦略を検証する-一極集中是正は人口の増加の特効薬にならず(PDF:725KB)
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