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CSRを巡る動き:TCFD提言に対する期待の高まり

2019年09月02日 ESGリサーチセンター


 近年、大雨や猛暑などの“異常気象”を原因とする災害が、世界各地で連日のように発生しています。今年は、イギリスやフランスなどで記録的な高温になるなど、ヨーロッパ各地で熱波の影響が広がっています。また、国内でも、昨年の西日本を中心とした豪雨、40℃を上回るような記録的な猛暑、関西空港を浸水させる原因となった台風21号など、あちらこちらで痛ましい被害の爪痕が残っています。

 このような“異常気象”は、私たち人間が過剰な温室効果ガスの排出を続けてきたことで地球温暖化が進み、それが地球全体の気象現象をこれまでと異なる状態にしている、いわゆる気候変動の一端であるとみられています。気候変動は、もはや将来予測の世界に留まらず、徐々に現実の私たちの暮らしにも影響を及ぼす段階に入った、ということもできるでしょう。
 
 また、気候変動は、ビジネスにも大きく影響を及ぼすことが認識されてきました。例えば、2011年にタイで発生した大規模な洪水では、工場の操業が長期間停止することとなり、その結果、世界全体のサプライチェーンにとっての大きなマイナス要因となりました。

 このような事態を背景に、生まれたのがTCFDと呼ばれる取り組みです。TCFDとは、主要国の中央銀行や関係省庁が参加するFSB(金融安定理事会)が、2015年に設置した作業部会「Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)」を指します。TCFDが設置された背景には、2008年に起こったリーマン・ショックが大きく関わっています。リーマン・ショックが世界全体の経済に大きな悪影響を与えるに至った理由は、経済に潜むリスクを前もって認識し、リスクに対する対応策を怠ったためと考えられています。世界の主要国首脳や国際機関が参加するG20は、二度とリーマン・ショックのような事象を繰り返さないために、現在は主要な検討対象となっていなくとも、将来は経済に影響を及ぼし得るリスクとして、気候変動を特定、傘下のFSBに検討を要請したのです。

 TCFDは、様々なメンバーによる議論を報告書としてまとめ、2017年に提言を公表しました。TCFD提言の主旨は「すべての事業者が、気候変動によって受ける影響を検討し、検討結果を社会に公表することを推奨する」というものです。そして、検討の前提となった考え方や手法なども、公表されています。TCFD提言は、気候変動による影響検討・公表のための“教科書”としての役割を担っているといえるでしょう。

 TCFD提言には、多数の組織が賛同を表明しています。その数は世界全体で810、日本国内でも160以上(2019年7月現在)にも上ります。また、日本国内では今年5月にTCFDコンソーシアムが設立され、多くの企業や官庁が一体となって、この取り組みを進めていくことに期待が集まっています。
 
 TCFD提言への取り組みは、緒に就いたばかりです。ただ普及が拡がることで、これまでは認識されていなかったリスクの洗い出しと、リスクを低減させる対策が進み、気候変動に対して強靭な社会が実現されることに繋がるでしょう。
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