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【農業】
アジアで拡大するわが国農産物への潜在需要

2019年08月20日 蜂屋勝弘


アジアが牽引するわが国農産物輸出
 わが国の農林水産物輸出額の増加が続いています。農林水産省の「農林水産物・食品の輸出実績」をみると、2018年は前年比12.4%増加の9,068億円となり、6年連続で過去最高額を更新しました。2019年は1-6月累計で同2.9%増と減速しているものの、引き続き増加基調で推移しています。

 農林水産物輸出額のうち6割強を農産物が占めます。わが国農産物は、生産コストや輸送コストの高さ等から、現地産や他国産に比べて価格競争力が優位にあるとは言えません。それでも輸出が増加しているのは、農産物自体の品質の高さや海外での和食の人気の高まりを背景にブランドの高さが評価されていることに加えて、経済成長著しいアジアで、わが国農産物の主要な顧客とみられる高所得層の厚みが増してきたためと考えられます。実際、農産物輸出額の上位20カ国・地域のうち11カ国・地域をアジアが占め、2018年のシェアは70%と、2013年以降の5年間で3%ポイント上昇しています。

アジアでの潜在需要の試算…2024年は2018年の2.5倍
 そこで、アジアの主要輸出先国・地域の高所得層の人口を推計すると、1人当たり年間消費額が3万ドルを超える人口は、2018年には5,787万人(総人口に占める割合は2.8%程度)と試算されます(図表)。今後も人口増加と経済成長に伴って同人口は増加するとみられ、2024年には2018年対比2.5倍増の1億4,249万人(同6.6%程度)になると推計されます。
             (図表)一人あたり年間消費額3万ドル超の人口の推計
図表1

 仮に、わが国農産物への潜在需要が高所得層人口に比例するなら、香港等の既に一定の高所得層が存在する国での潜在需要拡大の継続に加え、ベトナム等の高所得層人口の増加率が高い国での潜在需要の急拡大が期待できると考えられます。また、中国は人口規模が大きいうえ、高所得層人口の増加率も比較的高いことから、極めて有望な市場といえます。

輸出拡大に向けた課題
 農林水産物輸出の一段の拡大には、官民による以下のような取り組みを通じて、拡大する潜在需要をしっかり取り込むことが重要になります。

(1)相手国の輸入規制緩和に向けた働きかけや海外で通用する認証の取得促進
 輸出の際、相手国の検疫条件等が障壁となるケースが多く、緩和に向けた政府による相手国政府への働きかけの強化が、かねてより求められてきました。4月には新たな関係閣僚会議(注1)が官邸に設置され、工程表が示されるとともに、相手国との交渉と国内審査の機能の一元化等が検討されています。

 他方、海外事業者との取引では、品質保証等で、グローバルに展開する食品業者等による機関(注2)の承認を受けた規格(グローバルGAP等)での認証の取得が前提となるケースが多いとされます。わが国では、出荷先が国内中心であること等から、一部の生産者しかこうした認証を取得しておらず、今後、多くの生産者が輸出に取り組めるよう、取得の後押しが求められます。

(2)農業全体の競争力と収益基盤の強化
 今後も品質の高い農産物を供給し続けることが重要であり、農家の高齢化が深刻さを増すなか、高齢農家の優良な農地や生産技術を受け継ぐ次世代の育成を急ぐ必要があります。とりわけ、非農家出身者の新規就農では、将来的に起業・独立するにしても、まずは農地所有適格法人などに就職し、生産技術や経営ノウハウを学ぶといったルートが重要になるとみられ、農業を志す若者にとって魅力ある職場づくりが欠かせません。

 加えて、例えば、(1)生産ノウハウのデータベース化によって、熟練農家の“勘と経験”の継承を容易にする、(2)自走式の農業機械等の導入によって、新規就農の障壁の一つとされる、いわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」作業の解消・軽減を図るなど、IoTやロボット等の最新技術の実用化と普及の加速が求められます。

 さらに、収益力アップを狙って、農業を起点にした新規ビジネスや輸出等を担う人材として、経験豊かな異業種の人材を即戦力として活用することも重要といえるでしょう。

(注1)「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議」
(注2)「世界食品安全イニシアチブ(GFSI)」

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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