RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.19,No.74 再生に向かう中国・東北地域─日本企業の事業展開先として 2019年08月21日 佐野淳也米中貿易摩擦が激化する最中の2018年9月下旬、習近平総書記は遼寧、吉林、黒龍江の東北3省を視察し、地域経済・産業の立て直し(「東北振興」)を指示した。習近平政権は東北を地域振興策の主な対象の一つと位置付け、立て直しに取り組んでいる。もっとも、2000年代以降の「東北振興」の進捗状況を勘案すると、所期の成果を得られるかについては、楽観を許さない。習政権の取り組み次第では、空回りする恐れもある。習総書記が東北視察以降頻繁に使うようになった「自力更生」というスローガンは、積極的な外資誘致策からの転換ととられかねず、外資企業が投資を控え、東北地域の再生に支障をきたす可能性がある。国有企業を過度に重視する姿勢も、東北地域にある民営企業の事業意欲を低下させ、産業再生を阻害しかねない。習総書記の東北視察と同時期に、遼寧省は一帯一路構想の推進に関するプランを発表した。このプランの特徴として、①一帯一路構想を旗印とする「東北振興」策の推進、②省の産業構造を踏まえた協力策の実施、③日韓との連携強化に重点、の3点が挙げられる。プランは遼寧省、ひいては東北地域全体の立て直しに資すると評価出来るものの、日韓の企業は遼寧省の呼びかけに慎重で、連携は進んでいない。東北地域の再生は、「極めて困難かつ長期的な課題」という見方が定着している。しかし、地域経済はロボットのような新しい産業の台頭により持ち直しつつある。大手国有自動車メーカーの第一汽車が事業の立て直しに本腰で取り組むようになったことも、再生への明るい兆しに挙げられる。日本企業にとって、①新興産業・企業への部品供給、②地元企業との提携、③高齢者向けサービス、の3分野が東北地域での新たなビジネスチャンスとなる可能性を秘めている。産業再生の兆しに加え、地元政府が国有企業改革の遅れに危機感を抱き、外資企業により良い条件を提示する可能性が出てきたことは、企業に商機拡大をもたらすと期待される。高齢化の進展度合いや所得水準から、東北地域は高齢者向けサービスでボリュームゾーンを狙う点で最適の場所と考えられる。豊富な日本語人材は、日本企業の東北進出を後押しする要因となるであろう。減速しているものの、中国経済は年平均+6%超の成長を続けている。消費市場としての規模と成長性も兼ね備えており、中国以外で、これらの条件をすべて満たす国を探すのは難しい。日本企業は、米中貿易摩擦の激化を織り込みながらも、中国の内需を自社の成長に取り込み、ビジネスの可能性を探るといった事業戦略を長期の視点で展開する必要がある。日本企業としては、輸出に占めるアメリカの割合が他の地域より低く、アメリカ製部品に依存する度合いの小さい業種が興隆しているといった点で、対中事業戦略上の東北地域の位置付けを見直す必要があると思われる。・再生に向かう中国・東北地域─日本企業の事業展開先として(PDF:1157KB) 関連リンク《RIM》 Vol.19,No.74・グローバル・バリュー・チェーンからみたわが国製造業の現在地―「貿易立国」と「投資立国」を兼ね備えた新しい国のかたち(PDF:1487KB)・文在寅政権下で揺らぐ韓米同盟と変化する経済関係―ファーウェイ制裁への対応が課題に(PDF:990KB)・2020年代のインド経済の課題(PDF:2186KB)