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「テクノロジーX」に翻弄されない視座を

2019年04月01日 浅川秀之


「テクノロジーX」導入には失敗も
 AI、IoT、AR/VRなど、様々な先端テクノロジーをビジネスに取り込む動きが加速している。本稿ではそうした全く新しいテクノロジーを仮に「テクノロジーX」と呼ぶ。現代においてテクノロジーXは、製造業やIT関連企業などだけでなく、農業、教育、飲料食料品関連企業など、一見先端技術からは縁遠い業界でも積極的に活用され始めている。さらに、そうした活用事例を知った経営者が、業界の流行や競合他社に遅れをとるまいと強い関心を寄せるようにもなった。
 しかし、そのテクノロジーXを自らの経営や事業に実際に取り込むべきか否かの判断が難しいことは少なくない。例えば「AIを活用した新規事業の創出」といっても、AIを導入すれば必ずしも他社に比べて付加価値が高い事業が生まれるわけではない。当初見込んでいた機能や性能、品質などが達成できない、AI導入時のコストが思うように回収できない、といった事例もよく聞かれる。

テクノロジーXには表層・深層両視点が存在
 こうした失敗を招く原因の一つは、テクノロジーXの「表層的な影響」の一面しか捉えていないことにある。もっと言え ば、そのテクノロジーXがもたらす自社経営やビジネスへの「深層的な影響」を理解していないからである。
 「表層的な影響」とは、テクノロジーXによって解決する機能面や効率面での効果などである。テクノロジーXをツールあるいは機能として扱い、ビジネスへ及ぼす影響を示す。
 「深層的な影響」とは、テクノロジーXが、例えば自社の提供価値やビジネスモデル、あるいは業界のキープレイヤーを変えてしまうなど、経営やビジネスの構造にまで及ぶ影響を指す。
 ここで「インターネット」というかつてのテクノロジーXを例にとると、表層的な影響とは、「情報共有」や「情報検索」が格段に速く、「海外との情報共有」が容易かつ便利に、といった側面を示す。一方、深層的な影響とは、「モノの売り方や買い方が大きく変化」、そしてそれに伴って「広告モデルも大きく変化」、さらにその結果「EC(検索し、レコメンデーションを見て購入など)という新市場が拡大」する、ということである。

提供価値やビジネスモデルへの影響を見極めよ
 テクノロジーXの活用では、「表層的な影響」への考慮だけで競争優位を築くことは難しい。効率化や品質向上への活用は非常に重要ではあるが、競争上の観点からは差別化になりにくく、どちらかというと「必要条件」として具備すべきものであろう。テクノロジーXによる新たな価値の創造には、「深層的な影響」を与える活用を検討する必要がある。
 例えば、画像認識、言語認識、推論、判断などの技術を組み合わせた「AI(人工知能)」は最近の代表的なテクノロジーXの一つである。その活用で、これまで人が行ってきた作業を機械が代行できるようになり、多くの業務プロセスが効率化され ている。
 この「AI活用による効率化」は「表層的な影響」に相当する。現在、様々な業界でAIによる需要予測精度が上がっており、調達や生産、販売や在庫の最適化が可能となってきた。その結果、大幅なコストダウンや全体効率化が図られるようになった、というところまでがAI活用による「表層的な影響」である。
 一方、AI活用による「深層的な影響」としては、最近急速に導入が進む、最終顧客の要望やニーズをリアルタイムにサプライチェーンへ反映する仕組みがその一つに挙げられる。それによって「顧客がオーダーメードした商品をすぐに届ける」サービスが実現してきている。さらに、購買履歴などのほか、センサーからの情報を活用し、顧客がオーダーせずともニーズを自動的に判断し、商品を届けることまで可能になった。テクノロジーXがこれまでにない新価値を創造し、新市場を創造した代表的な例であり、現在のAI活用による競争力強化の主戦場は、この領域である。
 この表層・深層的価値の捉え方は、AI以外のAR/VRやロボット、量子コンピューターといった他のテクノロジーXにも同様に当てはまる。
 テクノロジーXの導入でこれまで提供してきた価値、そしてビジネスモデルはどのように変わるのか、さらには競合関係がどのように変化するのか。その本質的、深層的価値を理解し、ビジネスの根幹の何が変わるのかを見極めながら、事業や経営に取り込む判断や具体的検討を行うことが経営者にとって特に重要といえる。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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