堅調に推移していたアジア(中国、NIEs、ASEAN、インド)の景気は、2018年後半以降、減速トレンドに転じている。この背景には、①IT需要の鈍化、米中貿易摩擦などによる各国・地域での輸出の落ち込み、②中国でのデレバレッジ政策やNIEsでの過剰投資、ASEAN・インドでの高金利を受けた投資の減速、③輸出不振を受けた所得環境の悪化や金融引き締めによる消費の弱含み、がある。
アジア景気の先行きを展望するにあたって、景気に対する上下双方向の要因を整理する。まず、下押し要因としては、①米中貿易摩擦の長期化に伴う輸出の低迷持続、②ファーウェイ制裁を受けた半導体需要の先行き不透明感、③財政不足によるインフラ投資の景気押し上げ効果減衰、が挙げられる。一方、上押し要因としては、①米中対立をきっかけとしたアジア地域におけるサプライチェーンの再構築、②利下げ効果の発現、③世界的なデジタライゼーションの進展に伴う中期的にみた半導体需要の拡大期待、が挙げられる。
上記を踏まえ、2019年後半以降のアジア景気を展望すると、当面は減速トレンドが続くと見込まれる。もっとも、上記に示す上押し要因が徐々に顕在化してくることで、一方的な減速は回避される見通しである。
ただし、国・地域別では、成長ペースにややばらつきがみられそうである。ASEANやインドでは、比較的高めの成長が期待できる。米中対立の漁夫の利を得られることに加え、利下げ効果も徐々に発現してくることで、景気は底打ちから持ち直しに転じると見込まれる。中国は、アメリカによる関税引き上げやファーウェイ制裁の影響を直接的に受けるものの、中国政府が断固たる決意のもと、財政・金融政策を総動員するとみられるなか、景気は底堅く推移するとみられる。一方、NIEsは、IT需要は底打ちするとみられるものの、人口減少など構造的問題が顕在化し始めるなかで、力強さを欠
く展開が続くとみられる。
なお、アジア地域において最近実施された選挙では、軒並み従来政権の継続が選択され、一部で懸念された政権交代などによる混乱は回避された。アジア新興各国・地域政府には、政権継続に安住することなく、景気が減速トレンドにあるなかでも、ポピュリズム的政策への傾斜を回避し、潜在成長率を高めるような経済構造改革を継続することが期待される。
関連リンク
- 《世界経済見通し》JRIレビュー2019 Vol.8,No.69
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