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スマートシティのパッケージ化とその海外輸出の可能性

2019年06月25日 程塚正史


 グローバル経済のリスク要因として世界中が米中貿易摩擦の行方を注視している。その一環として華為問題にも注目が集まる。華為の通信設備・機器を用いると機密情報の漏洩につながるリスクがあるというのが米国側の主張だ。華為技術は、情報通信設備・機器およびシステムの総合事業者だ。メーカーであり、システム開発事業者でもあり、その運営事業を担うこともできる。対象領域は国あるいは都市全体の通信インフラやシステム基盤に及ぶ。当然、スマートシティの管理運営も可能となる。

 スマートシティというと古くて新しい言葉だが、要するに都市に関する様々なデータを集めてきて、そのデータを何らかのサービスの効率化に用いている都市と定義できるだろう。日本では伝統的にエネルギー分野が強調される向きが強かったがそれだけではない。交通・物流、上下水道、医療・ヘルスケア、廃棄物処理、産業支援、治安維持などが挙げられる。実は中国では、スマートシティ化は死活問題だ。「ある程度すでに都市運営はできているがそれをもっと効率化したい」という日米欧と異なり、「スマートシティ化しなければ都市運営が成り立たない(恐れがある)」という事情が中国にはある。というのも、例えば日本では半世紀以上かけて関連するシステムを高度化してきた。信号制御システム、水道管理システム、医療情報システム……などだ。一方、中国をはじめとする新興国では、それらシステムが未整備のまま、都市の規模だけが急拡大した。中国にとって、データに基づく管理システムを整備することは、持続的な都市運営を行うにあたって、極めて切迫感のある問題といえる。

 これに呼応して、すでに多くの関連事業者が動き出している。筆頭は、政府からスマートシティシステム開発の旗振り役と指名されているアリババだ。「都市大脳」と呼ばれるAIを構築し、特に自社の拠点がある杭州市などで実証を進めている。交通流の改善、交通事故発生時の対応迅速化、公安業務の効率化などの側面で成果を挙げている。アリババ以外では、同じくIT企業のテンセントや、冒頭の華為、保険大手の平安グループがシステムの構築や運用を進めている。テンセントは150以上の都市と業務効率化に向けた覚書を締結、華為も本拠地である深圳市龙岗区をはじめ60以上の都市でのデータ収集分析を行っている。平安は医療領域を基点に都市管理全体に対象を広げつつある。また、中科曙光、浪潮、大唐電信などのシステム会社も同様の取り組みを進めている。

 これらのシステムの特徴は、複数の業務領域を横断的に管理する点にある。つまり、交通、水道、医療……という縦割りではなく、行政の業務を一元管理するシステムとなっている。日本など先進国では、従来のシステムが各々そのまま、高度化されてしまったため、業務間の連携が難しい。一方、ゼロベースで構築を進める中国では、横連携を前提とした仕組みが可能となる。その結果、例えば交通とエネルギー、交通と医療といった領域横断的な効率化が実現できる(ちなみに各種領域をつなぐ際に、ノードのコアとなるデータは交通関連が最も多いといわれる)。実際、中国では各地で、上記のような都市運営業務の一元管理を行うシステムの導入・運用が進められている。2018年11月13日の本欄(「シンセンに見るスマートシティ事業のビジネスモデル」)で指摘したように、その導入・運用には潤沢に政府予算が投入され、先進国のシステムを一足飛びに超えて、新たな都市管理システム構築が企図されている。

 当然、そのシステムは同様の悩みを抱えるアジア諸都市に展開可能だろう。実際に、アリババの都市大脳はすでにクアラルンプールなどに導入されている。余談ながら華為問題はハードを通じた情報漏洩の懸念に焦点があたっているが、システム自体の移出となれば、受入国にとってはハードとは異なる次元の影響も想定せねばならないことになろう。いずれにせよ、中国のスマートシティ化、つまり都市管理システムの高度化は「蛙飛び」的に進む。その現実に対して、各種事業者、政府、それぞれの立場での対応を考える必要があると思われる。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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