日本総研ニュースレター 2018年11月号
長期のエネルギーレジリエンス ~システムは「自律分散型」で~
2018年11月01日 瀧口信一郎
北海道のブラックアウトが示唆する課題長期化
2018年9月上旬から10月上旬にかけて、台風21、24号および北海道胆振東部地震の影響によって、関西、中部、北海道で停電が頻発した。中でも広域送電網が機能しなくなった北海道では、史上初のブラックアウトという事態にも見舞われた。混乱は長引き、筆者が資源エネルギー庁を訪れた10月半ばでも同庁は被災への対応に追われていた。頻発する災害対応で、国内ではエネルギーのレジリエンス(災害対応の国土強靭化)に再び関心が高まっている。
過去には長く続いたエネルギー課題があった。1973年のオイルショックである。生活に大きな混乱をもたらしたトイレットペーパーの買い占め騒動はいつしか忘れられたが、石油価格の高騰が競争力に直結する製造業では、オイルショック後も含め、エネルギーコストを抑える対策が数十年にわたって続けられた。資源エネルギー庁もムーンライト計画に端を発する省エネ技術開発支援を行うなど、国を挙げての取り組みが世界に冠たる日本の省エネ技術につながった。
東日本大震災をはじめ、平成最後の10年間に頻発した災害は、数十年後に振り返れば、レジリエンスをエネルギー政策の主要課題にさせた出来事として認識されるだろう。
自律分散型エネルギーシステムを実現する3つのポイント
今後の災害で最も影響を受けるのは、人口減少の影響で経済状況が苦しく、インフラが劣化する地方の自治体や企業、住民であると予想される。地方のインフラは脆弱であり、被害後の復旧速度も都市部に比べ大きく劣る。
一方で、今回の地方での災害に対し、東京で生活する人々の関心はそれほど高くはなかった。東日本大震災後の関西も同様で、どこか「遠くの騒動」と受け止められている部分があるのを感じられた。結局、レジリエンスは地域自身が確保しなければならず、そのためには自前の自律分散型エネルギーシステムを導入することが1つの答えと考える。
実現には3つのポイントがある。
1つ目は、地域の多種のバイオマスに対応する小型発電設備を実用化し、地域資源を活用するエネルギーシステムを導入することである。地方ではガスや熱のインフラが整っていない。そのため、特に東北・北海道などの寒冷地では、重油、灯油、プロパンガスへの高額な出費を地域外に支払っている。
小型発電設備であれば、少量の地域資源をかき集めて地域で電気と熱を作ることができる。ただしその実現には、IoT技術によるデータ取得、自動制御、無人化を行って経済性を高める必要がある。バイオマス原料は性状が幅広いため、燃料としての品質を一定化させにくい。そこで、バイオマス原料から取り出すガスを自動制御で安定化させられれば、発電が安定するため、現場サイトに人員を配置しないで遠隔監視が可能となり、運用コストを下げられる。
2つ目は地域産業への波及である。小規模発電システムを定着させるには地域に付加価値を生み出すことが必要である。例えば、木質バイオマスを燃料に使えば、林業のサプライチェーンにつながり、農業・畜産廃棄物を使えば、農業・畜産業のごみ問題の解決となる。
3つ目は、広域送電網から地域の配電網へ電力融通を行うという従前の考えから転換することである。北海道で起きたブラックアウトはこれまでと異なり、広域送電網が機能しなかった。そこで、小規模バイオマス発電設備を稼働させながら太陽光発電と連携して地域に電力を供給し、充電をしやすい仕組みを整えれば、避難所でのエネルギー利用が行いやすくなり、地域住民の安心感は格段に増す。
日本総研の取り組み
日本総研では、2017年に民間企業14社と地域の小規模分散型エネルギーモデルを構築する研究を実施、2018年からは木質バイオマスのガス化を自動制御し、発電サイトを無人化した50kW程度の小規模システムの開発を進めている。公共施設や農業ハウスに電気と熱を供給し、地域での自律的なエネルギー確保を狙うものであるが、長期的には地域産業のデータインフラとの連携や、地域の災害対応力を高めるシステムへの発展も検討している。
レジリエンス対応の分散型技術は、オイルショックを克服した省エネ技術と同様、エネルギーシステムの転換を促す技術として、今後実装が求められる。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。